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「放射線は人から人にうつらない」はウソ?復興庁の見解に市民団体が異論

東日本大震災での原子力発電所事故では、被災地に住んでいた多くの人々が他の地域へ避難した。その避難先で、人々が不当な差別を受けたということが、メディアで盛んに報道された。「放射能がうつる」などと言われて、子供たちがいじめられたというのだ。この問題をめぐる論争は、現在も続いている。

昨夏には、福島民友が「『放射能うつる』の誤解」と題する記事を掲載した。福島県内の全ての小中学校で、放射線の基礎知識などを教えている。ところが、県が指定した、放射線教育に力を入れる「実践協力校」でさえ、「放射線をあびた人からは、周りの人に放射能がうつる。○か×か」という問いに、25%の生徒が明確に答えられなかったという。

当時、この記事の内容について、様々な意見が飛び交った。そして1年後、同様の論点が再び注目されることとなった。風評被害や差別の解消を目的に、復興庁は今春に「放射線のホント」という冊子を刊行。「放射線はうつりません」、「遺伝しません」、「健康に影響が出たとは証明されていません」、「今後のがんの増加も予想されない」と明言している。

 

 

この内容をめぐって、専門家や市民団体から各種の異論が提起されて、論争に発展した。さらに、7月25日に東京新聞の記事で、NPO法人「原子力情報資料室」共同代表の伴英幸氏が反論を展開した。「原発事故の影響はもう全くないかのような、誤ったメッセージを与えてしまう」と批判している。

「放射線はうつりません」という記述については、「放射線とすれば確かにそうだが、放射性物質が衣服に付いて運ばれることがあるのは、防護服の洗浄を思い出せば、簡単に分かること」と述べる。福島県内各地の放射線量は国内外の主要都市と変わりないという主張に対しては、「除染されていない山林や、高線量のホットスポットの存在が無視されている」という。

 

 

 

また、「放射線の遺伝的影響も、可能性は排除しきれない」と伴氏は言う。記事には、日本大学特任教授の糸長浩司氏も登場。「放射線による多数の甲状腺がんの発生を福島県では考える必要はない」と、冊子には書かれている。糸長氏は、これに異論を唱える。「今後十年、十五年と時間をかけて、検証すべき」と論じている。

当サイトでは、復興庁に話を聞いた。上記の東京新聞の記事については、把握しているという。放射性物質が衣服等に付着して移動することは、冊子の論点には含まれないのか。このように尋ねたところ、「放射線はうつりません」というのは、人体間で「伝染するかどうか」ということに限定した表現であると、担当者は述べた。つまり、論点が異なるというのだ。

 

 

続いて、ホットスポットに言及していない理由を尋ねた。冊子の当該箇所の記述は、福島県の資料『ふくしま復興のあゆみ』に基づいている。この資料に掲載された県内各所の放射線量は、保健所に設置された空間線量計での測定値であるとのこと。したがって、ホットスポットであるか否かということで測定場所を選んでいるわけではないと、担当者は説明した。

ちなみに、冊子の末尾には「この冊子の作成にあたり、お話を聞いた先生」の一覧がある。冊子の内容は、これらの識者たちの見解であると理解してよいのか。担当者によると、識者の見解は冊子を作成する際の参考にしたそうだ。ただし、復興庁によるインタビュー実施時に、識者が「誤りである」と否定したことは、冊子には記載していないという。

 

 

高橋 

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