●更新日 06/05●
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栃木女児殺害  〜精神科医ヤブ





あまりに痛ましく、怒りと恐怖を感じるような誘拐殺人事件の犯人が発覚した。小学1年生をめった刺しにした男については、今後マスコミがあれこれと書き立てるだろうし、弁護側は常套手段として精神鑑定を請求するだろう。精神科医としては、8年以上も犯行を隠しとおせるような人間に精神鑑定など不要だと思うのだが……。



さて、今回の事件に関して、ボスから精神科医として何か書けないかという依頼があった。テレビもあまり見ておらず、事件の全体像もあまりよく分かっていないため、あまり大したことが書けそうにないと断りかけたが、ふと思い出したことがあった。



誘拐大国とも言われるアメリカでの、実験的な誘拐防止プログラムについてだ。



いくら誘拐が怖いとはいえ、親が子どもにつきっきりというわけにはいかない。かといって、どういう人間が危ないのか、そんなことを教えようとしても不可能だ。だから基本的には「知らない人にはついて行かない」という原則を徹底して身につけさせるしかない。さて、ではこの原則は子どもたちにどれくらい浸透しているのだろうか。

防止プログラムの対象となる家族には事前アンケートに答えてもらう。すると親は、

「うちの子には、知らない人について行っちゃダメだ、もし声をかけられたら大声を出しなさいと常に言い聞かせているから大丈夫です」

と自信たっぷりに答える。また子どものほうも、

「いつも言われているから、絶対について行くことなんてないよ」

と胸を張る。

ここで、子どもにはシミュレーションだと告げることなく、親子でショッピングセンターに行ってもらう。そしてフードコートで、親が何らかの理由をつけて席をはずすのだ。この時、子どもは親から、

「10分くらいで戻るよ。知らない人に声をかけられたら、大声を出しなさい。それから、絶対について行かないように」

と釘を刺される。子どもはもちろん、

「分かってるよ」

と笑う。

立ち去った親は別室に待機する。子どもは親の帰りが遅いのでだんだんとソワソワしだす。20分ほどした頃、誘拐犯役が子どもに近づき声をかける。

「パパから呼んで来てって頼まれたんだ。どうやら忙しくて手が離せないらしいんだ」

最初、子どもは半信半疑で動こうとしない。ただし大声も出さない。数分間、あれやこれやと説得された後、結局、子どもはイスから立ち上がり、誘拐犯について行ってしまうのだ。別室まで連れて行かれると、そこには呆然とした親が座っている。

「うちの子は大丈夫だと思ったのに……」

これがシミュレーションでなければ、この親は子どもの死体と対面することになる。



この結果をもとに、親子、そして誘拐犯役のアドバイザーと一緒に話し合い、今後につなげていくのである。こういうプログラムを日本で導入できないものだろうか。恐らく、費用はそれなりに高くなるだろうし、意識が高くて金もあるような親だけが利用できるものになるかもしれない。それでも、ないよりはある方が絶対に良いはずだ。



こういう仕事は民間でないとムリだろう。個人的には、できればガル・エージェンシーのようなところで実験的にやってみてもらえないだろうかと期待しているところである。



そして、もしこういうプログラムができないとしても、世の中の親はこれだけは肝に銘じておいたほうが良い。



今のあなたの教育と躾だけでは、子どもは知らない大人について行ってしまうだろう。



ヤブ ヤブ


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