どれほどの時間が経ったろう。
 怖さを通り越し、私の中に成仏できない霊に対する哀れみの気持ちが広がった。すると、
男の生首は、苦しそうに『ウ〜・・』とうめきながら、スーッとかき消えていった。
 突如、部屋の電気がついて、私はうしろに引き倒された。腰が抜けたのか、足に力が
はいらない。また電気が消えたら・・・という恐怖がこみ上げる。
私はなんとかドアのノブに手をかけた。開いた・・・。
 やっとの思いでマンションから出た私は、何度も吐きながら自宅へ戻った。
 冷静さをとり戻すと、いくつかの疑問が頭に浮かんだ。
 殺された女の霊が出たことは納得できる。しかし、髷を結った男は誰なんだ?
霊が呟いた『良介』という名まえも気になる。

 私は翌日、予定通り、間田英雄の母親の出身地、青森県の苫和地村を訪ねた。
この地は津軽藩の統治時代に、すさまじい大飢饉(農作物の凶作による飢餓)があった。
飢えに苦しみ抜いた人々は、隣の子どもと自分の子どもを取り替えて殺し、
煮て食べたという。