●更新日 06/14●

幽明、境を異にする


欄干から水面を見下ろした者は、亡者にさらわれる・・・。


“自殺橋”と呼ばれているその橋は、埼玉県と群馬県の境に位置するダム湖に架けられた吊橋。
過去に何人もの人が、橋の欄干から現世に別れを告げたという。

何時からそこが自殺橋と呼ばれ始めたかはわからない。
眼下に広がる闇だけが知っている。


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私は、後輩と共に、群馬県側からこの橋へと向かった。


その橋とは、『金比羅橋』

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まるで、鮮血を塗り染めたような真っ赤な橋梁。

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「あ...青島さん…やっぱり帰りません?」
自称霊感の強い後輩は頑なに橋を渡ることを拒否した。


死んだ人間より生きている人間のほうが何倍も恐ろしいというのに。
臆病者は無視して、私は撮影をしながら埼玉県側へと歩を進め始める。


橋の中ごろまで進んだところで、立ち止まり周囲を見渡してみる。
昔の人は「橋」というものを単なる建造物としてだけでなく象徴的なものとして考えたらしい。
つまり「彼岸と此岸の繋ぐもの」、幽明の境を意味したというのだ。

そんなことを考えながら橋の真ん中に立っていると、

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「い゙ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!」

闇夜を切り裂くような悲鳴が響き渡る。
それは、橋のたもとに残してきた後輩の叫び声だった。

!!

周囲の空気が一瞬凍りつく。
すぐさま彼の下へ駆けつけるが、彼は橋の下のダム湖を見つめ、言葉にならない単語を繰り返すだけだった。

「あ・・・あっ、あ・・・」
彼が見つめる方向に目を凝らすが特に何もない。

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すると、背後からようやく落ち着いたのか、後輩の声が掛けられた。

「備品のカメラ・・・落ちました」

思わず責めるような眼差しを送ってしまうが、彼はこう続けた。

「仕事しなきゃと思って、下のダム湖の方を撮ろうと思ったら、急に何かに足を掴まれたような気がして・・・」

「・・・・・・」

この時、私の頭の中には「錯覚」という言葉と「下手な言い訳」という言葉が回っていた。
「(うっかり手滑らせてカメラ落としただけじゃねぇの・・・?)」

しかし、彼は必死にそのときの様子を説明しようと身振り手振りを交えて熱弁を振るう。


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曰く
「細い手のようなものに掴まれた」
「引きずり込まれそうになった」
「一瞬、何か白っぽいモノが見えた気がした」
「ストラップに手を通していたのに、カメラが引っ張られたみたいに落ちてった」



結局、彼を宥めてこの場を後にすることになった。
私は彼がミスしたのを心霊現象の所為にしていると思っているが、
この事を話題にすると、彼は今でも顔を青ざめさせ否定する。

真相は闇の中に・・・



青島


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