●更新日 08/04●
焼け残った想い…
東京三大霊園の一つ・谷中霊園
広大な霊園の中にかつて五重塔があった。
50年ほど前に焼失し、跡地は現在公園となっている。
その公園の案内板には火事の理由が書かれていない。
桜の名所でもある谷中霊園。春になるとその公園に多くの見物客が訪れる。
とある日の夜、公園で夜桜を楽しんでいた少し年の離れた夫婦。
妻が公園を離れ、近くのお手洗いへ途中、霊園のすぐそばにある民家を見ると
うすぼんやりと光っている…
震える足で公園に戻り、手提げから冷や汗を拭くために
手拭を取りだそうとするも、逆さにしても出てこない。
「家を出るとき確かに入れたのに…」と夫に向かってつぶやくと、
夫が何かにもたれながら細かく震えている。
「どうしたの!」と肩を揺すっても震えがとまらない。
その時、近くにいた老婦人が
「離れなさい!」
と声を荒げた。
夫が背を預けていたのは五重塔跡に建った碑だった…。
公園を離れ、夫が落ち着きを取り戻すと、老婦人は五重塔の歴史について話始める。
「あなた達のような年の離れた男女がここを燃やしてねえ…」
50年前、悲しい最期を遂げ二人が、似たような年の夫婦に嫉妬でもしたのだろうか…。
坂部
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