●更新日 11/11●
白い女
今からご紹介するのは、怪奇ルポライターをやっている私の元に寄せられたお話です。
和美さん(24歳仮名)の所にバイク事故を起こして彼氏が入院したとの一報が入り、夜中に着るものも不十分のまま駆け付けた病室で起きた体験。
----------------
病室に寝る直哉を見て、後悔の念が湧き上がる。
「何で来てなんて言ったんだろう」
今日は体調が良くないから家で寝てると言った直哉に、「もう一週間も会ってないじゃない、来て!」と我侭を言ったのは私だった。
愚図る私に業を煮やしたのか「わかった、行くよ」と電話を切り、一時間経っても二時間経っても直哉は来ない。
23時を回った頃だろうか。来た電話は、直哉からではなくて病院から直哉が事故を起こしたという知らせだった。彼の携帯の履歴の最新が私で、御両親が解るものを持っていなかったから私の元に連絡が来たらしい。
顔が少し腫れ、点滴が繋がれている直哉を見ては涙が零れる。
医者の説明では今夜が峠らしい。
何度目かの点滴を変えに来た看護婦が、「貴女も少しは休んでください。私たちも巡回してますから」と声を掛けてきたのだが、小さく頷くのが精一杯だった。
私が付いていたからどうなるとも思えないが、私の我侭から始ったこの事故にすっかり私はうろたえていて、私がもし寝てしまったら目を覚ました時にはもう直哉はいないのではないかという気持ちで一杯になる。
そんな気がして、私は直哉の手を握ったり汗を拭いてあげたりしながら彼の顔をみてまた涙が出て来て、何で来てなんて言ったんだろうと後悔する・・・というループを繰り返す。
どれくらい時間が経ったのか解らないが、もしかして少し眠ってしまったのかもしれない。
ふと目をずらしてみると、今まで寝ていたはずの直哉がベッドを降りて立っている。
「直哉・・・何してるの?寝てなきゃ駄目だよ」
そう言おうとした。言うはずだった。
声が出ない。何故??
気が付けば声だけじゃなく、体も動かない。いや・・・動く。動くのだが、その動きは酷く鈍重で、普段なら手を前に出すなんて意識しなくても出来ることが全く出来なくなっていた。
直哉は無言のまま立っている。
その私からは見えない視線の先。病室のドアの部分に白いフードのようなものを被った女性が立っていることに気付いた。
何で女と思ったのかは解らない。
顔がここからでは判別出来ないが、だけど直感で女だと思った。
その白い女の元にゆっくり直哉が進み出した。ゆっくりと。歩いているというより、すり足のよう。
その行動が私には酷くいけない事のように思えて止めようと思うのだけど、体は動かない。まるで重量を持った水の中にいるような感覚で、背筋を伸ばすのにも意識が必要で、声すらも出ない。
「イカナイデ」
そう言ったはずの声は声にならない。
そう思っている今も、直哉はゆっくりだけどドアの方に進んで行く。
駄目!行かせては駄目!!!!!
「――――駄目ッ!」
重い水の中を掻き分けるかのようだったと思う。よく覚えてはいないけど。
動かない足を無理やり引きずって直哉に縋り付いた。絶対に行かせては駄目だと、そう思った。
縋り付いた足の先から直哉が崩れる。崩れ落ちた時、直哉で隠れていた白いフードの中が見えた。
全く表情の無い顔だった。蝋人形のような。死人のような。白目が全く無い目だけがギラついている。
その顔が残念そうに私の方を見下ろしていたのだった。
・・・目が覚めた。
私は眠っていたらしい。じゃぁ、先ほどのは夢か。
当たり前だ。あんな体験は夢以外であるわけがない。酷く嫌な夢だった・・・
暫くして看護婦が来て、点滴を変えている間に直哉は目を覚ました。その後のことはいまいち覚えていないのだけど、看護婦の話では大泣きしながら抱き付いていたらしい。
その後、少し落ち着いて直哉と話していた時に
「俺、夢の中で白い服着た女に呼ばれて。そっちの方に行こうとした時に和美に後ろから抱き抱えられて・・・って夢みたんだよ。あれ臨死体験って奴かな。夢にしてはリアルでさぁ・・・」
それから暫く、汗が止まらず声が出なかった―――――
如何でしたでしょうか?
あの時、和美さんが無理やり縋りつかなかったら??
どうなっていたのかは誰にも解りませんが、きっと答えは一つのはず。
西垣 葵
|