●更新日 09/03●
漫画から派生した都市伝説 座敷女の恐怖
漫画で人気を博した座敷女は実在するらしい。いや、漫画からインスパイヤされた狂人が実在するのかもしれない。
「あの女は実在するのです」
「まさかぁ」
「大森で見たのです。あの化物のような女を…」
かつて都市伝説の聞き込みで、そう証言する人物に逢った事がある。彼にとって漫画のキャラクターではなく、実在の人物なのだ。
他にもこんな話を聞いた。
化粧っ気の無い顔。
枝毛の多いストレートヘアー。
中年のおばさんのようなファッション。
そんな女が、主人公の男の隣室に住む男に付きまとい、最後には主人公の男が座敷女にストーキングされる不気味な物語。
―――その座敷女は、実在するというのだ。
証言者のN君は、某大学の野球部のレギュラー選手であり、抜群の身体能力を持っていた。更に上背もあり、塁間の走行スピードも早かった為、社会人野球の○○社野球部に入団した程のツワモノであった。
「N君、凄い経歴ですね」
「ええ、まぁ。野球楽しかったな〜。あの時が、人生のピークだったかもしれませんね」
N君は、疲弊しきった顔を、やや上に向けると回想してくれた。
「毎晩、毎晩飲んでました。寄付金が死ぬほどありましたからね、当時は」
バブル全盛期の頃、社会人野球部の費用は膨大なものであり、新人ながら準レギュラー扱いだったN君も銀座で豪遊する事が多かったという。
ある店でN君はさえないホステスのK子と出会った。仲間に苛められ、すさんだ表情を浮かべた女であった。
「水商売の世界も大変なんだ」
「ええ、どんな仕事も大変よ」
自分と同じように先輩ホステスに気を使いながら働くK子に、N君は親近感を抱いた。
「いろいろ気を使って大変だね」
「ありがとう、でも仕事ができないわたしが悪いんだよ」
二人の出会いはそんな一言から始まった。そのうち二人は休日にはデートを重ねる仲になった。二人にとっては、楽しい日々であった。
だが、破局はひょんな事から訪れる。
「N君、うちの娘と結婚してくれないかね?」
「ええ、常務の娘さんとですか?」
「そうだよ、君の将来も約束されると思うがね」
上司の娘さんとの婚約を薦められたN君は、悩みぬいた挙句、K子さんに別れを告げたのである。
「絶対、私は別れない、貴方に一生つきまとってやるわ」
K子はそう絶叫すると姿を消したという。
―――だが、異変は少しづつ起こり始めた。
まず、N君が外出中に、室内にあった婚約者の写真が、ビリビリに破られていた事である。
「あいつだ、K子だ。K子の奴め〜」
N君は早速鍵を変えた。だが、それも効果がなかった。
一週間後、風呂場にてN君は絶叫した。
「うわっ、くせえ!!腐ってるじゃないか」
腐った猫の遺体を投げ込まれたのだ。
(あいつ、おかしいよ。やばいんじゃないか)
N君はある日、突然他県に引越した。近所にもどこにも転居先は知らせなかった。
「これで、いい。これで、あいつとも縁が切れる」
だが、それから1ケ月後、N君は自宅マンションの付近でK子を目撃した。
「あの女、K子じゃねえのか」
気味悪く思ったN君は、警察に通報した。
すると一週間後、警察からこんな電話が来た。
「あのNさん、K子さんと本当に付き合ってたんですか」
「ええ、今年の春から付き合って、二ヶ月前まで付き合ってたんですよ。別れた後も、ストーカーされて、いい迷惑なんですよ」
警察は、少し口ごもるとこう言った。
「あの、冷静になって聞いてくださいね。K子さんは貴方と別れたその日に、自殺してるんですよ」
山口敏太郎
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