●更新日 11/09●


進化する現代妖怪 婆妖怪はスピード狂?


現代妖怪は都市伝説の1ジャンルとして定着している。
一時はインターネットを中心に、次々新しい現代妖怪の存在が確認され、目撃情報が発信されていたものだが最近は落ち着いてきたようだ。
現代に生まれた、もしくは生まれ変わった妖怪たちはその存在を人間たちに知らしめ、気が済んで異界へ帰っていったのか。

ところで、人間型の妖怪には、名前に「爺(じじ、じじい)」「婆(ばば、ばばあ)」とつく、老人の姿で描かれるものや伝わっているものも多い。
知られたものをあげれば、「爺」は子啼きじじい、百々爺(ももんじい)など。
「婆」は砂かけばばあ、みかり婆、山姥などだ。
他の言葉が、伝聞の間に変化して伝わった可能性のケースも考えられるが、老人の姿が「妖しい物」のイメージに結びつきやすかったこともあるだろう。
面白いことに、現代妖怪にも、しっかりこの伝統を守っているものがある。
それが現代妖怪の代表、「100キロ婆」だ。

「100キロ婆」は全国で語られている。
峠や高速道路に現れ、高速で走る車やバイクを追い抜いていくといわれている。
中には、ドリフトをかける高度なテクニックを有する老婆もいるらしい。
無論、生身の老婆が(老婆でなくてもだが)、車を100キロで追い抜ける訳はないので、交通事故の犠牲となった老婆が妖怪と化したというサイドストーリーが付加されている。
「100キロ婆」というネーミングは、そのスピードからついたものだ。
同じ仲間と思われるが、東京の西多摩地区に「コツコツ婆」という妖怪が出現するとの情報もあった。
これは肘で走るのでコツコツと音がする事に由来するらしく、やはり交通事故の犠牲者が妖怪になったという話がつくのは「100キロ婆」と同じだ。
また「100キロ婆」の中には「お梅さん」という愛称さえついたものもあった(徳島)。

写真
イラスト:増田よしはる

おもしろい事に、この”早く走る老婆の現代妖怪たち”には多くのバリエーションがある。
なんと「60キロ婆」「80キロ婆」「120キロ婆」と各スピードの老婆が存在するのだ。
これは道路の制限速度の種類に会わせて、妖怪が存在するということだ。
ここでも、ありとあらゆる場所に存在し、名前もそれぞれ変化する日本の妖怪の伝統を守っているようだ。
しかし、道路交通法を遵守するとは、なかなかマナーのいい奴らである。
交通事故の犠牲者だっただけに、交通ルールにはうるさいのであろうか。
ところがその一方で、ますますスピードを早める妖怪もいるようで、「ターボ婆」「ジェット婆」と、ターボエンジンから、ジェットエンジンまで進化している老婆もいるのだ。
まるで自動車メーカーのモデルチェンジのようだ。
そのうち自然にやさしい「ハイブリッド婆」も出てくるかもしれない、などと思っていたら「超音速じじい」という音速! で自転車移動する妖怪が出た。
ある高校を夕方5時に金属音を立てながら走るという。
つまり、人間にはキィーという音しか聞こえないらしい。
どうやら自転車で高速移動しているようだ。
ようやく爺の出番だ、と期待したがほとんど肉眼で確認できず、人間を驚かすという妖怪の基本理念からはずれてしまっているキャラクターであった。



山口敏太郎



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