去る
 当時、新聞を見くらべた人はいなかったのだろうが、それを今になって発見した私は、
なんとも言いがたい恐怖を感じた。
 死体を埋めたあと、自首しようとして研究室に戻った教授に、彼女は霊となって、
とり憑いたのではないだろうか。そして彼を、一家心中に追い込んだ。
その怨念の凄さ・・・・・。
 しかも、奥さんとの離婚を強く迫って殺された彼女の亡霊は嫉妬に狂い、
今もこの研究室を祟り続けているのかもしれない。

私は依頼主である女学生を呼び、新聞を見せた。すると彼女は
「私が見たのは、この女に間違いないわ」と言って絶句した。
 そこで、気になっていた質問をぶつけた。
「君は今、その研究室にいる教授に好意をもっているのではないですか?」
 彼女は、うつむいて顔を赤らめた。相手にはされていないが、たしかに好意を
もっているというのだ。そこですべてが解けた。

 自縛霊となって研究室に現れる亡霊は、彼女の恋心を知り、黄泉の国から
迷い出てきたにちがいない。自分の恋が成就しなかった恨みを晴らすために・・・・。
 私は堀口君の話を伝え、これ以上の研究室への接近は死の可能性もあると釘をさした。
事実、彼女は自宅にいても、ふと死にたくなる感覚に襲われると言う。
 その後も、この6号館にはさまざまな霊現象の噂がたった。
 風もないのに、掲示板のチラシがちぎれて宙を舞ったり、窓ガラスがガタガタ鳴る。
判例資料室の本棚から、女のすすり泣きが聞こえる、など。
 どれもが霊のしわざだとしたら、死の淵に追い込まれる人がこれからも続くような
気がしてならない。

 もしこの話を読まれている方で、学校内で亡霊を目撃した人がいたら、
その場所には近づかないほうがいい。間違っても原因を探ろうなどとは思わないことだ。
何百年と恨み続けながら、あなたが来るのを待っているのだから・・・・。