●更新日 07/17●
幸せのつかみ方 (前編)
対象者は39歳の男性、そして依頼者は妻。
それはよくある浮気調査だった。
喫茶店のテーブル席に腰掛けた依頼者は注文の時間も惜しむように話を始めた。
「夫が浮気をしているようなので真実を知りたいんです。疑い始めるときりがないから」
ずいぶん悩んだ後のように顔はやつれ、心労の大きさが窺い知れた。
対象者について詳しい話を聞くと、月の小遣いを5,000円程度しか渡しておらず、女性との交際費用に回す余裕はないはずだという。
仕事は建築業で現場は毎回変わり、早朝に家を出る事もあるそうだが、移動は必ず自家用車であるトヨタハイエースを使用する。
「本音は私の勘違いであって欲しい」
最後にそう言った依頼者は喫茶店を後にした。
まだ周囲の民家が寝静まっている早朝6時、対象者はハイエースに乗り、出発した。対象者の服装が作業着であったことから仕事に向かうことが予想されたが気は抜けなかった。
移動すること約2時間、隣接する県との県境にある建設途中の戸建住宅前にハイエースを駐車させると、仕事を始めた。
そして、それは18時まで続けられた。
「今日はハズレですかね」
朝のルートをそのまま戻っていくハイエースを尾行しながら後輩がそんなことを口にした。しかし、自宅まで残りは半分ほどになった時、ハイエースのハザードランプが点灯
した。路上駐車したハイエースを後方から監視していると、間もなく20代半ばの女性が現われ、手馴れた様子で助手席のドアを開け、乗り込んでいった。
「抑えたか?」
「はい、顔もバッチリ撮れました」
後輩と短い会話を交わすと、ハイエースが再び動き出した。
その後、次第に街中から外れていき、車輌が一台やっと走れるほどの狭い農道へと進入して行った。その時には辺りはすっかり暗くなっており、ヘッドライトを点灯させての尾行は調査発覚の恐れがあった。そのため、月明かりだけが頼りだった。
暫く農道を走った後、ハイエースは農道の僅かなスペースに停車したが、2人は車内に留まったまま降りてくることはなかった。
その状況を自分なりに理解したのか、後輩は息を呑んだ後、言葉を発した。
「やばくないですか?」
その言葉の意味は十分に理解できた。しかし、ここまでの尾行でミスはない。バレているとは考えられなかった。
「慌てるなよ」
そう後輩に声をかけ、暫く様子を窺っていた。
つづく
探偵コフジ
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