情報提供・ご意見ご感想などはこちらまで! 記事のご感想は一通一通ありがたく読ませて頂いております。

『性犯罪被害とPTSD』精神科医ヤブ

田舎に住むAさんは20代後半、外見はチャーミングで、軽い知的障害がある。彼女は毎朝、新聞配達をして自分の小遣いを稼いでいた。

ある日、Aさんは新聞配達中に、近所に住む60代後半の男性にレイプされてしまった。泣きながら家に帰ってきたAさんに驚いた両親が、Aさんから真相を聞き出すのには1時間近くかかった。すぐさま警察に届け、男性は逮捕された。

まじめなAさんは、それ以後も新聞配達を続けたが、被害に遭った場所だけは通れなくなってしまった。またテレビでキスシーンを見てパニックを起こしたりするようにもなり、大好きなドラマも観なくなってしまった。こうした反応が1ヶ月以内に治まる場合には「急性ストレス障害」という。そして、1ヶ月以上続く時に「心的外傷後ストレス障害」(いわゆるPTSD)と診断する。Aさんのように被害現場を避けたり、性的なことを思い出すようなものを避けたりする以外に、被害場面を唐突に思い出すフラッシュバックといわれる症状もある。

PTSDは、Aさんのような直接的被害者だけでなく、誰かが被害に遭うのを目撃したり、家族や友人が事件や事故に巻き込まれたりしたのを見聞きした場合にも発症することがある。私の患者にも、近親者の首吊り自殺を目撃してPTSDとなった人が2人いる。

同じような目に遭っても、PTSDになりやすい人となりにくい人がいるようだが、知的レベルや学歴、年齢、性差は無関係のようだ。生物学的な理由は諸説あるが、ここでは省略し、Aさんのその後を記しておこう(ただし、知的障害のあるAさんからの情報なので不正確な部分もあるかもしれない)。

加害者は裁判で、Aさんの近所から立ち退くことを条件に執行猶予がついた。加害男性は数ヶ月ほど都市部で生活していたが、半年もせずに戻ってきた。怒ったAさんの父が加害者の家に行くと、加害者の家族から、
「もう年寄りなのだから、都会に一人ぼっちで生活させるのは可哀想でしょうが!」
そう追い返されたそうだ。

あれから数年経った今も、PTSDはAさんを苦しめている。

 

精神科医ヤブ 

タイトルとURLをコピーしました