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風水シリーズ ~事故物件の家

今回は撮影一切NGという条件付きで鑑定を頼まれた。読者が売りに出していることから具体的にバレたら不味いとのこと。鑑定代はそのまま頂くことになった。

石井さん(仮名)は「告知事項アリ」を承知で、このマンションを購入した。2LDKでリビングは狭い。
「不動産屋に死体遺棄と聞かされました。取引先の近くにあって、こんなところに住めたらいいな、と思っていて…そしたら、およそ市場価格の半値で出ていまして。」
石井さんは一ヶ月迷った挙句に購入。何かあっても今度売る時は告知事項を謳わなくて済むから高く売れると思ったらしい。
奥さんと子供に内緒で購入したが、半年後、ご近所と仲良くなった奥さんが事故物件に気付き、怒って実家に帰ってしまった。怪異現象が起き出したのはそんな石井さんが独りになってからである。
「寝ていたら、キッチンの蛇口の水がポタポタ落ちる音がするんです。気になって行ったら水の音が止まるんです。でも、確かに水が落ちている形跡が…。これが今でも続いています。」
「夕方、テレビを見ていると廊下で子供、それも何人かが遊ぶ足音がするんです。そこの扉を開けるとその音が止まります。」
どうやら石井さんは俗に言う霊聴体質なのか。見えはしないが音は聞こえるらしい。残像現象が見える私とは逆のタイプのようである。
部屋を見渡してみた。白い筋がカーヴを描いて視線の前を下から上へ。何か光が反射しているのか。気にしないでいよう。
ベランダに出てみた。近くに部屋と同じ高さにある神社が見えた。小高い丘に建っている。これ以上書くと場所を特定されるので省くが、風水上かなり悪い方角にあった。しかも高さが同じなので気の通り道になる。
問題のある家に共通して言えることだが、緑を置いてもすぐに枯れると言う。それでも家にいる間は東北と南西の角に大きな観葉植物を置くよう奨めた。大地の守りに中和してもらう必要がある。
私は少しでも悪気のお持ち帰りをしたくなかったので、何も封じる行為をせず、部屋から出て石井さんと近くのレストランで話をすることにした。お祓いで生計を立てているわけでは無い。
石井さんに、自分から進んで事故物件を買うなど言語道断の行為と戒めた。ひょっとするとマンションを売って違う場所に移っても怪異現象が貴方にくっついてくるかも知れない。奥さんや子供が出て行ったのもその伏線のような気がすると伝えた。家族を引き裂くのは悪気の仕業かも、と。
このような鑑定はもう御免こうむりたい。ビビリの麻生は最初からついて来なかった。どうやら正解のようだ。

家に帰って財布の整理をしていると、見慣れないスーパーの明細が入っていた。石井さんのマンションの近くにあるスーパーだ。金額は5000円余りで、かなり細かい買い物をしている。主婦の買い方だ。ん…日付が2年前。私は驚いて石井さんに電話をした。
「石井さん!鑑定代にスーパーの明細、挿んでたでしょ?」
「え!?知りませんよ。私、ご飯など作りませんから。そんなスーパーに行ったことないです!」
そうか…奥さんが住んでいた時期ともずれる…。何かの拍子に拾ってきてしまったんだな。
写真も撮らず、慌てて処分した。こんな時は跡を残さないほうが良い。


風の音が強い夜だな。

 

 

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