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『モンスター・ハンター 2~事例②』精神科医 ヤブ

前回、医療現場で大きな問題となっているモンスターの存在。実はモンスターは患者だけではないのだ。

ケース2 Gさん 60代 男性

Gさんの90代で寝たきりの父親が尿路感染で入院した。その後、肺炎も併発した。主治医は抗生剤の点滴で治療をしたが、なかなか熱が下がらない。とはいっても37℃前半ではあるのだが、高齢者の場合は体力がなくて熱がそう上がらないこともある。採血結果もあまり改善しない。とはいえ、自宅で寝たきりだった90代の男性であるから、元気ハツラツになることは望むべくもない。むしろこの入院がそのまま看取りの場になってもおかしくない。

2週間の抗生剤治療を行なった後、主治医はこれ以上の抗生剤治療は有益性がないと判断し中止した。「抗生剤は世界の財産」というのは医師の常識である。改善の見込みのない90代の患者に対して漫然と抗生剤を使用し続けることは、未来の若い患者に対して耐性菌という負の遺産をのこすことになりかねない。添付文書にも「原則として2週間までの投与」と明記されている。

ところが、これがGさんは気に入らない。
「添付文書に書かれているから中止するなんてどういう了見だ!? 患者の顔見てそんなことが言えるのか!? 抗生剤は世界の財産だと!? うちの父親は我が家の財産だ!!」
そして、なぜか私のところへ連絡が来るのだ。精神科医は苦情処理係じゃないって、とため息をつきつつ、それにしてもGさんはうまいこと言うなと感心しながら現場へ向かった。

父親の枕もとで腹立たしげに腕組みしているGさんに自己紹介したあと、私は言った。
「Gさんがお怒りになるのもよく分かります。主治医もお父様が良くなるように最善の努力をしているところです。ただ、抗生剤を長期に使用すると、腸内細菌の乱れを引き起こしてしまいます。抗生剤でいわゆる悪玉菌も善玉菌も殺してしまった結果、偽膜性腸炎という病気になる恐れもあるのです。お父様の場合、抗生剤を使い続けて偽膜性腸炎になるほうが危ないと、そう主治医が判断したと聞いています」
そう説明すると、Gさんは不満げに顔を歪めてこう言った。
「なんで主治医がそう説明しないんですか。そうやって説明されたら、こちらも分かりますよ」
……、ほんと、そうですね。


モンスター・トラブルの話を2回にわたって書いたが、「すべてモンスターが悪い」というわけでもないことには気を付けなければならない。Gさんのケースのように、患者や家族をモンスター化させる「モンスター製造機」みたいな医師や看護師、事務職員がいることも確かなのだ。

そして私は今日もまた、なぜか苦情処理係として呼び出されるのであった……。

 

ヤブ

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