情報提供・ご意見ご感想などはこちらまで! 記事のご感想は一通一通ありがたく読ませて頂いております。

『Y氏のパツパツのスーツと摂食障害』~精神科医ヤブ

探偵ファイルで度々取り上げられているY氏に対して、編集部から「どうして彼はいつもパツパツのスーツを着ているのだろう」という疑問が飛び出した。
報道では海外の家賃200万円の最高級レジデンスに住み、1億円のフェラーリを購入したとか。かなり高額収入を得ていると自称する彼からしてみれば、体にフィットした最高級のスーツをオーダーメイドすることくらい簡単なはずで、編集部の疑問はもっともだ。

そこで精神科医として、ふと頭に浮かんだのが摂食障害の患者たちである。
中でも「神経症性無食欲症」という病気は100人から200人に1人が発症する(発症は男性の10~20倍と圧倒的に女性が多い)。予後はあまり良くなく、死亡率は5%とも18%とも言われている。
摂食障害の彼女らは徹底的に痩せを目指す。

通常の美的感覚からすれば、すでに魅力がないほどの痩せ状態になってもなお、自分はまだまだ肥っていると言い張る。
他者からすると極端な思い込みに見えるが、実はこれはただ思い込んでいるわけではない。実際には、彼女らの目には自分自身の体が肥って見えているのだ。
彼女らを対象にした興味深い実験がある。がりがりに痩せた被験者を鏡の前に立たせ、そこに映った自分の輪郭に線を引くよう指示する。
そうすると彼女らは、実際に映った像よりも大きくはみ出した線を描く。彼女らの脳は、視覚がとらえた自らの映像をそう認知しているということである。これをボディ・イメージの歪みという。

さて、ここでY氏の話に戻ろう。もしかすると彼にもボディ・イメージの歪みがあるのではないだろうか。
ただし、摂食障害の女性とは反対に、実際の輪郭よりも内側に線を引くほうの歪みである。実物よりも細く描かれた輪郭が、彼の脳が認知している自らの体型である。
そんな彼からしたら、客観的に見てパツパツのスーツでも「ジャストフィット、いやむしろ少し緩い」くらいに感じられているのかもしれない。

 

ヤブ

タイトルとURLをコピーしました