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死体写真家釣崎清隆氏インタビュー

――コロンビアって危険なイメージがあるんですけど。
釣崎氏(以下:釣):実際危険だよ。まぁそれがいいんだけどね。特に農村部のゲリラが多い地域とか、共和国政府の支配が及ばない場所に日本人のカメラマンが入って行くなんて、誘拐してくださいって言ってるようなもんだよ。
でも、コロンビアを知ったことは僕の人生の中でも大きな部分を占めてる。

――死体写真を撮らせてもらう時って現地の人にギャラとか払うんですか?
釣:死体写真を撮ることって場所が場所なら大したことじゃないから。金を払って撮らせてもうらうことは滅多にない。一時期、死体写真を買い漁るブローカーがいて、それを目当てに写真を売りつけようとするのがいたけど、自分で撮らないと意味がないからさ。
自分で撮る分にはいくらでも方法はある。

――パレスチナでは武装組織の幹部とも会ってますけど、どういったコネなんですか?
釣:10年もやってれば、初めて訪ねる国でも、経験的にどうすればターゲットに辿り着けるか大体わかってるし、危険な地域で一緒に過ごした連中とは、ある意味戦友みたいな付き合いがあるから。
結局人間関係だよ。時間はかかるけど。

――釣崎さんの本や映像を見ると、貧しい地域ばかり行ってる気がするんですが。
釣:死体は先進国じゃ撮れないし。だから必然的に貧しい国、貧しい地域に行くことになるね。紛争も、貧困が原因のひとつである場合が多いし。
貧しい人々にはシンパシーがある。

――貧しさを撮ろうと思ったことは?
釣:ない。それは他がやってるし、本気で貧困と闘うならそれこそ、NGOでも立ち上げなさいって話になる。

――危険な国に入国して、殺されている日本人に対しては?
釣:入っていく分には誰でも入っていけるからね。要は現実認識が甘いんだよ。危機に対する現実感のなさっていうか、なんとかなるさって、根拠もないのに。
やばい場所では、一歩一歩にじり寄って行くような慎重さが必要。
とはいえ運もあるのは確かだけど。
バビロンの遺跡が見たいって、イラクに日本人のバックパッカーが結構入ってるらしいよ。香田証生さんだけじゃない。
オレはイラクでもアフガニスタンでもコロンビアでも行きたいやつは勝手に行きゃいいと思う。いくら旅慣れていても、いくら危機管理能力があっても、運が悪ければ死ぬのが危険地帯というもんだ。
香田さんが平和ボケ日本人であろうがなかろうが、戦場記者歴30年の橋田信介氏だって、民間軍事会社ハート・セキュリティーの傭兵、斎藤昭彦さんだって殺されるわけだ。
香田さんは、テロリストにカメラの前で斬首されて晒し者になった。凄まじい体験だね。
オレも旅慣れないころは無茶なバックパッカーに違いなかった。
ただ、なんとかなるさ、なんて思ったことは一度もないけどね。

――オロスコの死を聞いた時はどう思いました?
釣:1つはほっとした部分もあったよ。3年撮り続けるって結構長い。オロスコの死をもって長い旅がクランク・アップしたんだけど、途中、自分で撮っていながら、これっていつまで続くのかなって思うわけよ。
なぜだか、オロスコが死んで終わるってのは想定してなかったな。コロンビアっていう国は突然物事が終わらされるってところがある。
なんでもありの国で、確かなものが何ひとつなくて、そん中でオロスコは強烈な存在感があって、その存在感ゆえにオロスコに永続的な価値観を勝手に思い描いてたのかもしれないな。
自分が言うのもなんだけど、いい映画になったよ。オロスコみたいな人は他にいないから。

――映像からオロスコっていいオヤジって感じがします
釣:人がいいかは別にして、性質はいいよ。自分の過去を恥じてるしさ。
それで、自分の人生の未来を極端に限定してストイックに生きた。彼は聖職者でも宗教人でもなく、スラム街に住む一介のエンバーマーなんだよ!
そんなやついないから。あの界隈にもいないし、世界中にもいない。

――よくいましたね。こんな人がコロンビアに
釣:うん。やっぱコロンビアって奇跡の国だと思うよ。
むちゃくちゃ悪いやつがゴマンといるけど、そんなかで、究極の場所には奇跡が存在するんだなって思った。
ボーダーを越えて、究極の場所に行けば、オレの想像力なんか遥かに及ばない世界があるんだよ。
オロスコはまさにそれだったんだ。

――コロンビアの人達にはどんな印象を?
釣:彼らはラティーノなんだけど、コロンビア人は性格に暗いところがあるよね。
なんかメランコリックな感じ。俺はそういうところが好きだね。他のラテンアメリカの国の人々と同じように表面上は明るいんだけど、実はひとりひとりに陰影があって、もちろんどこの国の人にも陰影はあるんだろうけど、その影のつき方が好きだなぁ。

――コロンビアにいる日本人は?
釣:飛ばされたっぽい商社マンとかいるね。それになんといってもコカインの国だから、日本のやくざが買いつけに来てる。
売春婦の人身売買をやってるやくざとかも。まともな日本人はいないな。

――コロンビアは銃を持ってる人が多いですよね。
釣:よく銃をズボンの前に突っ込んで歩いてるやついるけどね。でもそういうやつって、ニューヨークにもいるからなぁ。
トレンチコートの前をはだけて、44マグナムをこう挿して歩いてるやつとすれ違ったことがあるよ、ウォール街で。
日本でも下北沢で日本刀持って殺気立って歩いてるやつ見たよ。
それに、ピストルなんてさ。10mも離れれば役に立たないから。
俺の隣にいたやつらが突然道の真ん中で銃撃戦を始めたことがあってさ、かなり撃ち合ってたけど、双方とも当たってなかったし、俺にも当たらなかった(笑)。
そういえば、ロシアの警官にマカロフを眉間に突きつけられたことがあったよ。酔っ払って警官を怒らせた時に(笑)。

――恐怖体験あるじゃないですか。
釣:まぁでも、それで片腕がなくなったとかないし、大したことないよ。

――普通の人だったら小便ちびってますよ。
釣:小便ちびってもいいから、そういう時は表情を読めなくしてればいい。そしたらなんとなく済む。
相手にしてみれば、何考えてるかわかんないやつが一番厄介なんだよ。ポーカーファイスをどこまで装えるかがミソ。
オレ、それで助かってる面が相当あるよ。内心はどうあれ、とりあえず外見の平静を保ってればなんとかなる。

――日本の規制に対しては?
釣:残酷描写の規制についてはなんとかしたいって常に思ってる。
でも、一番なんとかしなければならないのは、エロ・メディアの局部の“ケシ”だね。
残酷描写に関しては日本では自主規制で、欧米と少し事情が異なるかもしれない。特に出版は取次業者がそういった自主規制の判断をするんだけど、状況によってころころ変わる。
少年が猟奇犯罪なんかしでかそうものなら、真っ先に残酷メディアが槍玉に上がって、いやぁ~これは通せないですねぇ、ということになる。
でも何年か経ってその手のメディアが市場からまったく消えると、そろそろ死体写真集とかほしいですね、なんて平気で言うんだよ。
このさじ加減をわきまえればなんとなくやっていけるのかもしれないけど、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるよ。
とりあえず日本には残酷描写に関する法的規制はない。

――規制をなくすとどうなると思いますか?
釣:オープンにしすぎるとコロンビアになってしまうかもね。コロンビアは規制というものが何ひとつ存在しない。人の命も奪ってOKな国。
そこまでいってる自由主義の国だからさ。
だから規制を撤廃していくとアメリカ合衆国になり、もっと撤廃するとやがてはコロンビアになる。そんな気がする。

――でも興味本位でみんな死体を見たがってますよね。
釣:だから、いつまでたっても見る側の目が肥えない。興味本位の域を全然越えていかない。
例えばメキシコには死を見つめる文化があるから、死体写真をアートとして理解する段階まで達してる。
メキシコでは死体写真がサブカルではないから。でもこれはメキシコ固有の文化だし、日本にあてはめるのは難しいけどね。
とにかくもっとナチュラルに見てほしい、写真としてね。みんなオレの死体写真を見てるけど、実は死体しか見てないわけよ。
写真展を開くじゃん。客のほとんどは間違いなく写真じゃなく死体を見に来てる。
おかしいよね。
アートギャラリーでやってるのに。写真展をやると、オレの作品を見ながら飯を食ってみようとする客が必ずひとりは来る。
だからいつまで経ってもイチから説明しなきゃならない。
ま、いいんだけど、いつまで経っても次の段階に行けない。

――これから行きたい国は?
釣:南ア。実はアフリカ大陸には行ったことないんだ。
世界最悪の治安で売出し中らしいし(笑)

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