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官僚はこの国を良くしたいのか ~岸博幸


 前回の記事に対して読者の方から質問をいただいたので、今回はそれにお答えしたいと思います。

質問1:ずばり、官僚はこの国を良くしたいと本当に思っているのか?頭のいい集団なのだけど、実は民間に来たら使えない人達なのかもと思ってしまいます。

 すごく核心を突いた質問ですねえ(笑)。結論から言えば、官僚の多くはこの国を良くしたいと本当に思っています。じゃないと、若い頃の安月給と長時間残業には耐えられません。最近は、やり甲斐と安月給/長時間残業を天秤にかけて入省後数年で辞める若手官僚も増えていますが。。。

 ただ、キャリア官僚の多くは頭が良いし日本を良くしたいと思っているけど、現実には民間に来たら使えない人も多いのも事実です。何故そうなってしまうかと言うと、やはり30年以上も役所に勤務したことによる弊害が大きいのかなあと勝手に邪推しています。
まず、変なプライドが無意識のうちに体に染み付いてしまうのか、天下り後は勝ち組で人生あがりと考えてしまうのか、民間(=役所時代は下に見ていたところ)の流儀に心の底からは馴染めないというのがあるように思います。

かつ、役所の中でしか通用しない仕事のやり方しか知らないため、ある程度出世した人の中には、天下り先でもそれをやってしまうケースもあるように思います。
本当は、役所を退官した段階で意味ない変なプライドを捨て、一からやり直す気持ちで民間で頑張れば、基本的には優秀なのでもっと天下り先などの役に立てるはずです。そう考えると、個人的には残念でならないと同時に、変なプライドもなく、また早めに辞めた自分は本当にラッキーだったと思っています。


質問2:安倍政権以降、どうも政治に興味が向きません。選挙には行っていますが、それは自分の年代/生活スタイルと同じ有権者の投票率を上げることで自分の有利な政策をマニュフェストに掲げさせる、というその目的で行っており、だれに投票しようという考えはあまりないのが正直なところです。
当選することによって私たちに影響する効果がどれほどのものか、というものを教えていただけませんでしょうか。

 うわ、これもすごく本質的な質問ですね。探偵ファイルの読者のレベルは高いなあと実感しちゃいます(笑)。結論として、この質問をして下さった方の考え方は非常に正しいと真面目に思っています。
 というのは、今のような間接民主主義においては、有権者は自分の考え/主張を代弁してくれる人を議員(=国民の代表)に押し上げ、他の議員としっかり議論して、自分の考え/主張を政策や予算という形で実現してもらうのが正しい姿だからです。

 選ばれた後にそこまでしっかりやってくれる議員/政党を選べば、もちろん既存の大政党に比べると国会での影響力は小さいので時間はかかりますが、長期的には自分の生活や考えにもすごく大きな影響を及ぼしてくれるはずです。僕は今の高齢者民主主義も国民の投票行動の結果なので否定しませんが、質問して下さった方のような考え方が広まって、全世代で議論できる形に民主主義が進化してほしいと思います。

 ちなみに、N党のガーシーさんが当選したことを未だに驚いて嘆く識者もいますが、僕はこれも前向きに捉えています。
 ガーシーさんを当選に押し上げた投票者のモチベーションが、既存政党への不満なのか、ガーシーさんの世界が好きなある意味オタクの人たちのノリなのかはまだよく分かりません。ただ、もし前者ならば、既存政党の未だ昭和の延長のような意識(選挙運動のやり方などから明らか)を変える可能性があるのではないかと思います。

そして、個人的に勝手に期待しているのは、モチベーションが後者の場合です。日本のオタク文化が世界最強であるのは皆さんご存知と思いますが、実はオタク文化に限定せず、失われた30年の日本経済でイノベーション創出を頑張ったのはオタクの人たちでした(日本の食は世界一という評判はオタクのシェフたちが作り出したのが典型例)。
もしガーシーさんの当選が、そのオタクの人たちが政治の世界にも影響を与える予兆であるとしたら、オタク大国の日本で政治や民主主義も日本独自の形で進化し出すのではないでしょうか。
多分そうしたカオスを経ないと日本の政治は変わらない(日本のエリート層が変わるのを阻害する)と思うので、個人的にはちょっと楽しみが増えたかなと面白がっています。


 最後に余計なことを一つ書いておくと、参院選が終わった後の7/14に岸田総理が記者会見をしましたが、そこで、今冬(今夏ではない)の電力需給逼迫を乗り切るために、原子力発電所9基の再稼働と老朽化した火力発電所10基の稼働を経産大臣に指示したとの発言がありました。
 翌日の新聞はこの発言を大きく報道していましたが、そもそも原発9基の再稼働は以前から官僚が決めていた既定路線です。また、これまでも、電力需給に心配がある時は電力会社が自ら老朽化した火力発電所を稼働させて乗り切っています。

 つまり、電力需給に関する岸田総理の発言に新しい政策は何も入ってなかったのです(個人的には省エネの強化など、他にもやれることはたくさんあるので、それを入れて欲しかったですが)。ついでに言えば、再稼働させる原発9基はすべて西日本なので、本来は本州の東側(50ヘルツ)と西側(60ヘルツ)の間で電力を融通するための連携線の容量を増強すべきですが、この工事にはあと5年くらいかかるのが官僚が作った予定のため、これは総理の発言に入っていません。
 もちろん、参院選と安倍元総理死去の直後なので、政治主導の新しい政策を入れる余裕がなかったのが大きいとは思いますが、前回書いたように今後は官僚主導がさらに強まる兆候のようにも見えるので、岸田総理にはもっと頑張っていただきたいと心から願わざるを得ません。。。

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

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