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統一教会を巡る報道に感じる違和感  ~岸博幸

 安倍元首相銃撃の背景に統一教会があると分かって以降、マスメディアと野党が今度は統一教会でずっと大騒ぎをしています。しかし、個人的にはこの大騒ぎにちょっと違和感を感じています。

なぜメディアは安直な癒着の構図を作ろうとするのか
 というのは、世間の関心が高い以上、統一教会との関係が深かったと思われる自民党議員を問い詰めることはある程度必要ですが、一部のマスメディアや野党はそれを超えて、自民党と統一教会の癒着というステレオタイプな構図を作ろうとしているように見えるからです。森友・加計問題で安倍元首相と関係者の癒着という構図を作り上げた時とほぼ同じパターンになっています。

 その典型例は、文科省が2015年に統一協会の名称変更の申請を受理したことを巡る“疑惑”です。一部メディアの報道を簡単に要約すると、1997年には申請の受理を拒否したのに、2015年は申請を受理している、しかも受理するかどうかは文科省の一部局である文化庁の部長の権限なので文科大臣に報告する必要ないのに、申請受理時と名称変更を認める時に下村文科大臣(当時)に報告・説明しているのは、統一教会と繋がりのある下村氏が政治的な影響力を行使して行政を歪めたからだ、というストーリーになっています。

 常に反政権の発言を繰り返し、かつ文科省の組織を守ろうとする二人の文科省OBの証言に基づいてこうしたストーリーが展開されているのですが、ではその構図は正しいのかと言うと、眉唾ものだと思います。役所の意思決定の仕組みを考えれば、それは一目瞭然です。

 通常、霞が関の役所で案件を大臣に上げる(=説明する、意思決定を求める)場合、まず事務次官以下の官僚で議論して結論を出してから、大臣に説明して意見を求めるのが一般的です。官僚側で何の結論も出さず、手ぶらで大臣に「どうしましょうか。決めてください」とお伺いを立てることはあり得ません。
 そう考えると、統一教会の名称変更についても、おそらく文化庁内で決めるのはリスクも大きいので、文科省本省の大臣官房の幹部とも議論して、まずは官僚だけでの結論を出して、それを下村大臣に上げたはずです。

 従って、統一教会の名称変更の承認のプロセスは、
①(大臣への忖度が原因かはともかく)まず官僚間の議論で受理という結論を出し、それを下村大臣が追認した
②官僚間の議論では不受理という結論を出したのに、下村大臣がそれをひっくり返したので、受理という結論に変えた
のどちらかであったと思われます。

 そのどちらが真実であるかは、当時の文科省関係部署の官僚の証言なり関連する内部資料が公にならない限り判別できないはずです。それにも拘らず、さも下村大臣の影響で統一教会の名称変更を受理して認めたかのように説明する文科省OBの二人の発言に乗っかって癒着の構図を作り上げるようとするのは、ちょっと安直すぎるのではないでしょうか。

 

安倍元首相の国葬に法的根拠はない?
 ついでに言えば、安部元首相の葬儀を国葬とすることに対する反対意見が増える中で、一部の野党議員を筆頭に“国葬を行う法的根拠がない”と主張する人が散見されますが、これも勝手な思い込みに過ぎません。

 というのは、内閣府設置法という内閣府の所掌事務の範囲を定めた法律の第4条第3項第33号に、「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く)」との規定があるからです。“国葬”とは明記されていませんが、“国の儀式”の一つとして拡大解釈できると考えられます。
霞が関の各省庁の設置法では、将来どのような新しい行政課題が出てくるか分からないから、すべての所掌事務を個別列挙できるはずないので、このように拡大解釈して対応することが一般的であることを考えると、この条文が国葬の法的根拠になると考えられます。
そうした事実を無視して、意図的かどうかはともかく一部の野党議員がネット上で不正確極まりない書き込みをして世間に広めようとするのも、森友・家計問題の時と同じです。

もっと大事な問題がたくさんあるのに。。。
 以上から考えて、どうも私の目には、一部のマスメディアや野党は統一教会を巡って森友・加計問題の繰り返しを狙っているようにしか見受けられません。確かに権力の監視はマスメディアや野党の大事な役割なので、自民党や安倍政治の負の部分を一掃するんだという彼らの意気込みを全面否定はしませんが。。。でも、冷静に考えれば、今は統一教会の問題のみならず深刻な政策課題が山積みです。中国リスクへの対処、医療体制の改革、物価上昇で苦しむ家計への支援策、電力需給の抜本的改善など、枚挙に遑がありません。

 統一教会問題の追及も大事ですが、そればかりに終始せず、これらの問題にも国民の目が行くようにするのがマスメディアや野党の役割ではないのかと改めて感じます。統一教会問題ばかりに時間を割けるほど日本経済の再建にはもう余裕がないのですから。。。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

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