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バラマキ合戦に成り下がりつつある少子化対策

 少子化に関する議論が盛り上がっているようなので僕も参戦すると、岸田総理が“異次元の少子化対策”という言葉を繰り返し、小池都知事は0〜18歳に月5千円給付、第2子の保育料無料化を打ち出す、という明らかに4月の地方統一選(+広島サミット後の衆院選?)を意識したバラマキ合戦には辟易としています。

 もちろん、日本の少子化対策予算の対GDP比が欧州の主要国よりかなり劣る現状を考えると、やらないよりはやった方が良いとは思います。しかし、それではこうした子ども対象のバラマキを増やせば少子化問題を解決できるでしょうか。結論から言えば絶対に無理です。

 その理由は簡単で、今(というか過去30年)のように景気が悪いままで収入が増えない状況では、将来見通しが明るくないのが誰でも分かる中では、非正規雇用など現在の収入が低い人たちが結婚や出産に踏み切れるはずないからです。
消費税はもっと上がる、社会保障の水準は大きく下がる(負担増+給付減)人口減少で景気を良くするのは大変なのです。

ちなみに、少子化対策予算のGDP比が日本を上回る欧州の国は、少子化対策以前の問題として、働く人の収入(実質賃金)自体が日本よりよっぽど多いことを忘れてはいけません。

 日本の雇用の状況をざっくり言うと、高い収入を得て終身雇用・年功賃金で守られている大企業の正規雇用は働く人全体の3割だけの一方、4割が非正規雇用となっています。

 その賃金格差がどの程度かというと、例えば国税庁の調査を見ると、正社員の年間平均給与が508万円であったのに対して非正規社員の平均は198万円でした(2021年)。

加えて言えば、企業が社員への教育訓練を行う場合、その主な対象は正規社員で、非正規雇用の人はスキルアップの機会にも恵まれていないので、現状では収入を大幅にアップできる可能性もそう大きくありません。

この状況で、年収200〜300万円の男の人が、子どもへの給付が増えたり育休を取りやすくなったからといって、結婚や出産に前向きになるでしょうか。。。

 以上から私は、政治家が少子化対策でバラマキを競うのも良いけど、同時に抜本的な社会保障制度改革、雇用制度改革(同一労働同一賃金)、非正規雇用へのより手厚い支援などを真剣にやらなければダメだと思っています。現状そのどれも厚生労働省が取り組んでますが、その場しのぎの対応のレベルを超えていません。

 かつ、大事なのは経済を本気で立て直すことです。今のように、企業に社員の生活や社会保障などの面倒を見させる昭和のアプローチは、特に非正規雇用が働く人の4割を占めるようになった今はもう継続不可能です。

 ちなみに、経済を立て直す観点から言えば、少子化対策や社会保障などの財源論になるとすぐに消費税アップを言い出す政治家は絶対に信用しない方が良いですよ。

日本の経済を立て直すには、何よりまず消費を増やすしかないのに、消費税を増税したらその肝心の消費を冷やしてしまうのですから、そんな当たり前のことも考えずに選挙が近づいたらバラマキを言い出し、その財源で消費税増税を気軽に言うなんて、無責任過ぎると思います。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

 

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