物価上昇を抑えるためには円安是正が必要では?
次に、「円安を何とか是正しないと物価は上がり続けるのではないか」という質問です。
これは判断が若干難しい部分があります。物価上昇が始まったのは2022年からで、暫くの間は明らかに海外の資源価格の上昇や円安が進んだことが物価上昇の主因でした。
しかし、円ベースでの輸入物価の上昇率を見ると、昨年の9-11月はマイナスとなりました(12月はプラス1%)。つまり、円安の物価上昇に与える影響は以前より確実に減っているのです。かつ、昨年秋から政府はガソリン代や電気・ガス代補助という物価上昇を抑える政策を復活させています。
それなのに今も物価上昇が止まらないのは、大企業を中心に社員の賃上げ分を生産性の上昇で吸収するのではなく、ダイレクトに製品・サービスの価格に転嫁している影響が大きくなっているからと考えられます。
これは言葉を換えて言えば、政府が“物価と賃金の好循環”を喧伝するので、企業も賃上げしたら製品・サービスの価格に転嫁すればいいやと安直に考えている可能性があるのではないでしょうか。政府がコストプッシュ・インフレーションを推し進めているのです。こんな異常な政策判断はあり得ません。
それでは、政府は物価上昇を抑えるために何をすべきでしょうか。そもそも“物価と賃金の好循環”というアホな方針からの訣別を明確に宣言すべきです。そして、103万円の壁への対応での減税も良いですが、消費税の軽減税率を時限的に大幅に減税して、家計や小規模なお店の負担を軽減すべきです。
ただ、マクロの輸入物価上昇率が大きく低下したとはいえ、個別の品目・サービスでは円安が価格上昇に影響しているものも多いはずですから、当然ながら円安の是正も必要です。そのためには日銀が継続的に利上げして日米の金利差を縮小すべきという考えもありますが、利上げは家計や中小企業への悪影響が大きいので慎重に考えるべきです。
それよりも、政府が為替市場にもっと頻繁に介入して、円安是正に向けた毅然とした意思を示すべきではないでしょうか。幸い、トランプはドルが強過ぎるのは問題と公言しているので、米国のメリットにもなる円安是正に文句を言うとは思えません。介入のための原資は、政府が保有する米国債を売りまくれば十分に捻出できるはずです。

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。