●更新日 03/22●
事件編
Mさんは、お隣のHさんのことを以前から(危ないな)と感じていました。
なにせ、このHさん、朝から晩まで酒を飲んで酔っ払っていましたし、時折、大声で奇声をあげてもいましたし、不機嫌に怒鳴りながら、あちこちを叩いたり蹴ったりしてましたし。
要するに、粗暴で気が荒い、頭のイカれた人なのです。
その上まずいことに、HさんはMさんのことが大嫌いらしいのです。
Mさんの顔を見ると、なにかと文句をつけたり、凄んでみせたり、くだらないことでインネンをつけたり。
(なるべく関わらないようにしないとな。)
そう思って、気をつけていたのですが……
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二人が住んでいるのは古いアパートの2階です。
風呂はなし。トイレは共同。
張り出し廊下は腹くらいの高さの鉄柵で囲われていて、廊下の先に階段。
反対側の突き当たりには共同トイレがあります。
間取りはこんな感じ。
ある日のこと。
共同トイレで用を足していたMさんの耳に、誰かの大声が聞こえてきました。
Hさんです。
どうやら酔っ払っているようで、なにやら激しく罵りながら、アパートの階段を上がってきます。
時々“ドカン、ドカン”と、何かを激しく叩くような音も聞こえてきます。
(またHさんが騒いでいるのか……)
どうやら、一番関わってはいけない状況のようです。Mさんはさっさと部屋に帰ることにします。
用を足し終えてトイレから出ると、驚いたことに目の前にHさんが立ちふさがっていました。
ものすごい形相です。
目つきが尋常ではありません。どうやら酔っ払って正常ではないようです。
そして、恐ろしいことに、
どこから拾ってきたのか、手には金属バットを握っています。
とてつもなく嫌な予感に、Mさんは立ちすくみます。
Hさんは血走った目で、Mさんを睨んでいます。
そして、いきなり!
「ごおおるぁぁぁあ! Mぅぅぅっ!」
叫び声を上げて、金属バットで殴りかかってきたのです!!
(うわっ!)
振り下ろされる金属バットを、Mさんは間一髪でかわします。
ガンッ!
金属バットはトイレのドアに当って穴をあけました。
唖然とするMさんに、Hさんの第二撃!!
今度はかわせません。
金属バットは鈍い音をたててMさんの頭に命中!
「ぐあっ!」
痛みで意識が遠のきかけるMさんでしたが、必死で気をもちなおします。
「うりぃぃぁぁ!」
叫び声と共に、再び金属バットを振り上げるHさん。
(もう一撃くらったら、死ぬ!)
Mさんは、夢中でHさんに掴みかかります。
死にもの狂いで力を振り絞り、Hさんから金属バットを奪い取りました。
「なにするだーっ!」
叫びとともに、奪った金属バットを振り下ろします。
ガギン!
Mさん、渾身の一撃はHさんの頭に命中!!。
Hさんの動きが止りました。
しかし。
ギロリ。
金属バットの下からHさんがMさんを睨みつけます。なんということでしょう。
激昂のあまり、我を忘れているのでしょうか?
酒に酔いすぎて痛みを感じないのでしょうか?
Mさんの攻撃はまったく効いていません。
「むだぁぁぁぁっ!」
Hさんは意味不明な叫びを上げてMさんに襲い掛かると、
金属バットを掴み、再びそれを奪い取ってしまいました。
Hさんはそれを横殴りにMさんの顔に叩きつけます。
ブンッ!
Mさんはとっさに、しゃがみこんでそれをかわしました。
そのまま、Hさんの足元を走りぬけて廊下を走って逃げ出します。
「まてごるぅあぁ!」
背後から金属バットを振りかざしたHさんが追いかけてきます。
必死で逃げるMさん。
しかし、すぐに行き止まり。廊下の突き当たりです!!
(階段を……だめだっ)
(速度が落ちれば背後から!)
(逃げられない!!)
振り返ると、Hさんはもう目前!
「けえぇぇぇぇっっ!!」
Hさんは金属バットを振りかざし、
叫びと共にMさんの頭にそれを振り下ろしました!
Mさんはそれを間一髪でかわします!
Hさんは、勢い余って囲いの鉄柵に激突。
柵を乗り越え、落ちそうになります!
上半身は完全に柵の外。下半身も足が半ば浮いています。
「ぬがぁぁっ!」
Hさんは金属バットを振り回しながらバランスをとり、
どうにか体勢を整えて廊下へ戻ろうとしています。
(チャンス……だっ!)
Mさんは、体勢の整わないHさんの足を、夢中で捕まえました。
そのままHさんの足を抱え上げ、柵のむこうへ放り投げます!
「そおぉおいっ!」
「おぐがああぁぁぁぁぁぁっ!」
叫びをあげつつ、Hさんは地上へ落下します。
ドスーーーン
鈍い落下音が聞こえました。
・
・
・
あたりに静寂がもどりました。
(た……たすかった……)
荒い息をつきながらMさんはその場にうずくまってしまいます。その時、
「お〜〜〜〜〜い」
下から細い声が聞こえてきました。
「お〜〜〜〜い。たすけてくれ〜〜〜。」
Mさんが身を乗り出して下を覗くと、声の主は地面に叩きつけられたHさんでした。
「足が折れちまったよぉ〜〜〜たすけて〜〜」
酔いが醒めたのでしょうか? 情けない声で助けを求めています。
(救急車……呼ばなきゃいけないんだろうなぁ……)
Mさんは、痛む頭を押さえつつ、ため息をつきながら首を振るのでした。
Hさんはか細い声で、まだ吠えています。
「ちきしょ〜〜てめ〜〜この〜〜」
「訴えてやっからな〜〜〜」
「ゆるさね〜ぞ〜」
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結局、転落したHさんは3ヶ月 の入院を要する大怪我を負いました。
怪我を負わせたMさんは、Hさんに訴えられてしまいます。
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さて、この事件の裁判員の皆様。
被告:Mさんにどんな判決を言い渡しますか?
実際に言い渡された判決はこちら⇒「判決編」
特捜班
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