私は、輪廻(生まれ変わって因果を繰り返す)の恐ろしさに心を震わせながら、
O氏に教えてもらった村の墓場に向かった。
 良介の子孫、間田家の墓に線香をたむける。
 ふっと上を見上げると、小高い丘のようなものが見えた。私は、引き寄せられるように
その方向に足を進めた。
 すると、草むらの中に、ぽっかりと口をあけた古井戸が見えた。
『その昔、裏山の麓に水のない井戸があり、大飢饉のときに人を殺して食べた残骸の
捨て場所となっていた・・・』
 O氏の言葉が蘇る。
 周囲を観察すると、地形はちょうど山のすそのに位置していた。
「これが重ねの井戸か・・・・」
 水らしきものはなく、どこまでも深い穴のように感じられる。
 その井戸から十メートルほど離れたところに、大きな石があった。昔の墓のようだ。
よく見ると字が刻まれていた。本多家の墓・・・・と。
「たしか、殺されたマントルの女の名まえも、本多・・・本多啓子(仮名)だった」
 私は急いで村に戻り、近くで農作業をする老婆に、本多家の墓や喜助のことを
聞いてみた。老婆の顔は一瞬こわばったが、深くうなずき、
「本多家は喜助の子孫だよ。でも、明治初期に滅びたと聞いている」と言った。