もっとくわしい情報を得るため、近隣を尋ね歩くと……。


 昭和五十六年一月、一人の男性(三十一歳)が、海で行方不明になる事件があった。


彼の妻(二十六歳)は、「夫は生きている」と信じ続け、海に近い夫の実家に身をよせて、毎日極寒の海に通った。そして、日が暮れるまで海を眺め、夫の帰りをひたすら待ったという。


 二人は愛し合い、はじめての赤ちゃんが生まれたばかりだった。


 行方不明から四十日目、残酷にも夫のサイフが浜に打ち上げられた。その中には、妻がしのばせていた五千円札と、「これで温かいものでも食べて」というメモがはいっていた。
警察署で遺品のサイフを受け取った妻は、その足で夫の好きな「シクラメン」の花束を買い、赤ちゃんを抱いて片貝漁港から身を投げた……。