奥さんは初婚で結婚して間もないが、彼は再婚で、まえの奥さんは鉄道に飛び込んで亡くなったと言う。
驚いた私は、思わず「それを知っていながら結婚したのですか?」と聞いてしまった。
奥さんは『精神異常で発作的に飛び込んだ』と聞かされていたから、と答えた。
しかし、そんなむごい死因は、隠しておくのが新しい妻に対する思いやりというものだ。
たとえ告白したとしても、精神異常から発作的に首を吊ったとか、もっと上手なごまかし方をするのが礼儀だろう。彼の神経はどうなっているんだ。彼女は「今になって考えれば、まえの奥さんは主人に追い詰められて死んだ」と言い切る。
そのわけを聞いてみると、たまに家に帰れば殴る、蹴るは当たり前。黙って耐えると「なんでしゃべらない、そういうところが嫌いだ」と、朝まで延々とののしられる。
生まれたばかりの子どもにさわろうとせず、生活費も入れず、実家に食費を頼るありさま。衣服は破かれ、風呂にはいっていると頭から小便をかけられる。まさしく生き地獄だ。
翌週の月曜日、里見さんが出社してきた。あまり顔色が思わしくない。
社長室に呼んで奥さんから聞いた話をする、彼女はこう言った。
「私が見たのは、まえの奥さんじゃない。もっと昔、二百年ぐらいまえの女の霊です。年は三十歳ぐらい‥‥体じゅうに拷問を受けていて、顔や頭は焼鏝で焼かれています。最後は牢屋のようなところに閉じ込められて餓死してしまう‥‥。なぜ拷問を受けたのかはわかりません。何も食べられずに死んだから、とても欲深い顔をしています。かなり飢えていて、怨念もすごい‥‥。私に、いきなり噛みつこうとしましたから」