●更新日 06/20●

探偵達の心霊事件簿 〜夏季限定〜
◆伊勢神トンネルの真実

探偵Nです。前回の心霊事件簿の取材後、身の周りで怪奇現象がいくつか起こりました。どうやら将門公に呪われているTakaのせいらしいです。日を追うごとに顔が土気色に変色してゆく歩く怪奇現象発生装置と化した男は東京に強制送還しまして、今回は私独りで心霊事件簿を担当させていただきます。ちょっとマジメな切り口で・・・。



名古屋市から国道153号を一時間ほど東へ進む。東加茂郡と北設楽郡の郡境にまたがる峠にそのトンネルはある。新道と旧道のふたつのトンネルがあり、旧道伊勢神トンネルは1897年(明治30年)に開通した。当時は飯田街道の難所と知られた伊勢神峠の近道として、たいへんありがたがれたトンネルであった。そして時は流れ、自動車時代の訪れとともに大型トラックなどの運行を容易にするために、1960年(昭和35年)新道伊勢神トンネルが開通された。

このふたつのトンネルには様々な心霊体験、心霊情報が氾濫している。しかもどれも虚偽やデマ、噂が先行しすぎ、事実がないがしろにされている傾向がある。今回はこのトンネルでの心霊体験が実際にあったことなのか、検証していきたいと思う。そもそもここでの心霊体験の発端は、トラックドライバーのこんな話から始まったらしい。

新道が開通して間もない頃。とあるトラックドライバーが国道153号を走っていると、一人の女性がこの山道を歩いていたらしい。不憫に思ったこのドライバーは女性をトラックに乗せ、ふもとまで送ってあげようとした。しかし新道を抜けると、助手席に座っているはずの女性が消えていたという・・・。

そもそもこのドライバーの体験談自体、裏づけも確認もできるはずのない話であるため、実際にあった話なのかどうなのか、知ることができない。しかしこの話が始まりとなり、様々な心霊現象が報告されるようになったと言われている。

まずは旧道伊勢神トンネルから探索することにした。
新道付近にあるドライブインを右手に曲がり、入り組んだ山道を登っていくと、そこに旧道がある。確かに雰囲気は異様である。うっそうとあたりを囲む木々、そこにひっそりと静かに穴のあいたトンネルの入口は、心霊や幽霊などといった類のものがいてもおかしくはない。いざ中へと入っていく。明かりひとつないトンネル内では車のライトだけが行き先を照らし、入口と出口の光だけが唯一の明かりとなる。とても夜などは通ろうという気にはならない。いや、とてもなれない。

トンネルを抜けるとすぐに一軒の民家があった。そこの住人に早速話を聞いてみることにした。
「ここで生まれ、70年住んでいるが、幽霊を見たなどといった体験は今までに一度もない」。民家から出てきた小柄な老人が言った。

この旧道伊勢神トンネルは心霊スポットとして、訪れてくる人が絶えないという。またラジオやテレビなどといったマスコミなどがそれをあおり、さらに恐いもの見たさの人たちを呼びこんでいる。老人の話によると、特に夏場は若い人たちが夜遅くにこの地を訪れては騒ぎ散らしていき、ひどい話になると、深夜2時にたたき起こされ、「幽霊出ますか?」などと聞いてきた人もいたという。


写真1 写真2
   民家側から見た旧道伊勢神トンネル。 撮影は許してくれなかったが、ここまでは許してくれた。
左手奥に見えるのが旧道伊勢神トンネル。


「そんなもの(幽霊など)おらへんだが!」。話を聞いていくうちに老人の話は悲痛な叫びとなってきた。おそらく「取材」と聞いて、最初のうちは警戒したのだろう。しかしこちらの意向を丁寧に説明していくと、ようやく納得してもらうことができた。


そして老人の口から出た言葉は「迷惑」の一言だった…


ここで伊勢神トンネルの歴史をはっきりさせたいと思う。なぜならトンネルの歴史について調べていくと、かなりのウソや根拠の無い噂などが氾濫しているからである。上記したように、旧道伊勢神トンネルは明治時代に開通したトンネルである。当時は伊勢神峠の東と西の交流の道として、たいへん栄えたといわれている。この旧道では、心霊体験などが多く語られているが、そのように言われるほどの歴史など無い。むしろ繁栄の象徴として保護指定などを受けても良いくらいである。また、誰かが死んだ自殺した、生き埋めになった人がいるなどといった話があるが、ここに長年住んでいる老人の話によると、旧道で死んだ人はいないとのことだ。

変わって新道伊勢神トンネルなのだが、こちらには少し歴史がある。1958年(昭和33年)に着工され1960年(昭和35年)に完成された。この間には「伊勢湾台風」(昭和34年)があった。伊勢湾台風はこの地域にも大きな爪あとを残している。新道の工事に参加していた工夫たちが、この台風の被害によって12人死亡した。しかし死体はすべて発見され、供養され埋葬されたという。そのため生き埋めになった人がまだ眠っているなどという話はまったくのウソである。ちなみにこの工夫たちの多くは九州出身者で、つまり出稼ぎ労働者であった。

私見を述べさせてもらうと、伊勢湾台風の被害による死者は3168人もおり、行方不明者は92人だったと発表されている。もし台風の被害により死亡し霊となり、現世をさまようのであれば、伊勢神トンネルだけでは収まらない話になる。現地の人の話によれば、台風による行方不明者はこの地にもいたというが、川に流され行方不明となったため、伊勢神トンネルとは無縁だという。


「もし幽霊が出るなら旧道より新道」、
         老人は最後にこう語ってくれた。



というわけで新道を探索しに行ったのだが、新道は工事中であった。


写真3


少し分かりにくいが…

工事関係者に話を聞くと、工事内容は車線の再設備、そして、


写真4


光ファイバーの配線工事だった。
時代の流れとでも言うべきなのだろうか。工事は順調に進んでいるらしい。


〜取材を終えて〜
この地域は街から離れ、まわりは山や木々に囲まれ、とても雰囲気のある場所である。特に旧道に関して言えば、肝試しなどには最適な場所であると言える。しかし老人の話を紹介したように、現地に住む人にとってそこは生活する場所であり、決して心霊スポットなどではない。もしこの地を心霊スポットとして訪れ、肝試しなどに利用するのであるのならば、十分に現地に住む人たちのことを考えてもらいたい。そして良識をもった楽しみ方を皆様にお願いするしだいである。



心霊事件簿は、たまには、こういう真面目な切り口も良いのではないかと・・。


探偵ファイル・探偵N






前の記事
心霊事件簿インデックス
次の記事