●更新日 09/16●

東尋坊の冷たい霊(渡邉文男ホラー4)


ゴマ書房の怨霊調査報告書にも登場した東尋坊(とうじんぼう)
本には書かなかった余談をひとつ。

夜の東尋坊に行き、車で30分ほどの古びた旅館に泊まった。
仲居さんが部屋に挨拶に来た。
年の頃は六十半ば、痩せこけて目がギョロリとした風貌。
いきなり、私に向かってこう言い放った。


お客さん、体の左半分が冷たくないかい?


何を言い出すのだ?と一瞬驚いたか、自殺の名所・東尋坊に行って来たことをその仲居さんに告げた。
すると

「そう、やっぱりね・・・。」
「何か見えるんですか?」
「女の人が・・・ね。」
「え〜っ!どんな?」
「全身が濡れてる・・・お客さんに寄りかかってるよ。」
「!!・・・。」













言葉を失い、思わず自分の体中を凝視した。
仲居に言われたからではないが、確かに先ほどから妙な悪寒がしていたのだ。
気づくと仲居の姿がない。いつの間に出て行ったのか・・・。

しばらくすると別の仲居がお茶を持ってきた。

「あの、さっきの仲居さんは?」
「え?この階は私だけですけれど・・・」
「そんな馬鹿な、これこれこんな仲居さんでしたけど。」

その仲居さんは持っていた湯飲みを落とした。
そしてこうつぶやいた・・・。


去年死んだ女将にそっくり・・・。


ひどく気分が悪くなった。
幽霊に幽霊がついていると教えられたわけ・・・か。
お客さんを守ろうと出てきた女将さんに合掌。



渡邉文男


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