●更新日 10/25●
隙間
隙間がある。
私の家は古く、立て付けが少々よくない。
押入れの戸を閉めようとしても必ず隙間が出来てしまう。
子供の頃はそれが無性に怖かった。
その暗い線の向こうになにかが潜んでこちらを覗いているのではと、常に恐れていた。
しかし歳をとり、いつのまにか恐怖は消えた。
そう、その隙間の向こうには何もいるはずがない。
子供の頃に感じた恐怖は全て想像が生み出した幻。
…その、はずだった。
ガタ…ガタガタ…
深夜1時、隙間から音がした。
すでに床に就き眠気もピークだった私は、ネズミだろうと確認もせず放っておいた。
いよいよ意識が夢の中に落ちようとしていた、次の瞬間。
オギャァ…オギャ…オギャァア…
赤子の泣き声に夢の淵から一気に呼び戻された。
全身の毛穴が一気にひらく。
赤子の声は…そう、あの暗い隙間から聞こえてきていた。
とっさに頭を布団の中にもぐりこませる。
汗で布団の中はじっとりとしていた。
何分たっただろうか…
泣き声はいつのまにか消えていた。
確認しよう頭を布団からだそうとしたが、次の瞬間身体が凍りついた。
オトウ…サン…
隙間から今度は小さな子供の声が響いた。
いや、それだけじゃない。
初め高かったその声は、徐々に低く大人びた声になっていく…
隙間の闇で生まれた赤子は、闇の中で成長していった。
押入れの戸がすべる音。
声がだんだんと近づいてくる。
アナタハ ワタシノ オトウサンデスカ?
ちがうっ!!
心の中で必死にそう叫ぶ。
耳元でそいつが話しかけるたびに何度も何度も叫んだ。
何度そう叫んだろう。
そいつは私の耳元をはなれ、玄関を開け出て行った。
私はそのまま恐怖で動けずに朝を迎えた。
その日、静かな町に事件が起きた。
酔った男性が、足を滑らせ池に落ちて死んだらしい。
噂では地面に引きずられたような後と、腕に人の手の形をしたアザがあったという。
私は押入れを調べた。
そして押入れの床の下に小さな骨を見つけた。
本当に、手に収まるほど小さな、人間の骨。
内山直人
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