●更新日 11/29●
紫のおじさん(百物語)
幼い頃、家族で遊びに出かけたときの事です。
家族で電車を待っていた時、ふと気付くと弟の姿が見えなくなりました。
ラッシュ時でも何でもない時期・時間です。はぐれるような状況でもありません。
「下に落ちたのかも」と思った母は、慌てて線路を覗き込み、
父も私にこの場を動かぬよう言いつけて駅員のもとへ走っていきました。
残された私は何をしてよいかわからずにいました。
状況がわかっていなかった事もありますが、私には何故父と母が慌てているかもわかりませんでした。
私には弟が紫色の上着を着た男性と一緒に線路上にいるのが見えていたからです。
ただ、何故か私以外の大人達には弟とその男性の姿が見えていないようで、
弟からも私たちの姿が見えていないようでした。
親に言っても取り合ってもらえず、紫のおじさんに恐怖を感じ、どうしていいかわからずに弟を見ていると、
電車の通過を知らせるアナウンスと電車の音が聞こえてきました。
弟が危ないと、感じました。弟を返せと、思いました。
返せ!!
紫の男性に向かって叫びました。
直後、紫の男性の前に犬の様な動物の形をした白いモヤが現れ男性を取り囲むのが見えました。
紫の男性はモヤの中でその三白眼でこちらを睨み、電車がその光景の上を通り過ぎ行きました。
電車が通った後、反対側のホームに弟が立っていました。
弟は駅員に保護され、私たちのもとへ帰ってきました。
「どこにいたのかはわからない」「知らないおじさんと遊んでた」と言いました。
何故、自分だけに弟の姿が見えたのか。
何故、弟からこちらが見えなかったのか。
紫の上着の男性は何者なのか。
あのモヤは何なのか。
私自身わからないことだらけです。
後日ですが、何度かあの男性を見かけました。
私が夜中に目を覚ますと、壁からあの目でこちらを睨みつけているのです。
咲
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