●更新日 12/02●

草の意思


「あの樹は御神木だから切ってはいけない。切ろうとすると災いが起きる」

このような話や、工事などでどかそうとすると事故や怪我人が続出するという話を皆さんも聞いたことがあると思います。
一番有名なのは東京にある将門公の首塚だと思いますが、これは小さい頃に私が体験した話。


私の祖母の田舎はN県にあり、小さい頃はよく遊びに行っていました。祖母の家の裏庭は今思っても広く、柿の樹などが生えていて子供心に秘境のように思えたものです。
ここの裏庭、樹木が生えているだけでなく、草もかなり生い茂っていました。
祖母や祖父はそれでも別段気にすることはなかったようなのですが、ある日、私の父が「ここを除草して平らにし、駐車場にしたい」と言ったそうです。父の友達は個人での中古車ディーラーをやっており、商品となる車を保管する駐車場を探していたとか。
何もしないで毎月地代が入ってくるなら祖母も断る理由は特にないということで、ある朝に業者の方が来ました。


草刈機で切って、除草剤を撒こう・・・としたそうなのですが、いざ開始という時にその時来た業者の方は突如体調が悪くなったそうで、その日は中止。
代わりに頼んだ日も機械のバッテリーが切れてしまったり、車が故障してしまったり・・・と何故か思うように行かず、全然作業は進みません。
業を煮やした父が自分でやると言い出し、近所から草刈機と除草剤を借りてきました。

「あっ!」

開始して2分もしない内に、大声をあげて蹲る父。どうしたのかと母が近寄って行くと、草刈機で足を切ってしまっていました。

写真

みるみる内に血で染まる地面。12針も縫う大怪我だったそうです。
除草しようとしても出来ない。無理にしようとすると大怪我までしてしまった父。
これは何か良くないことが有るのでは・・・と母は言っていましたし、祖父も「無理して除草せんでもよかろう。駐車場にするなら、そのまま使えばよかろう」などと言っていたそうですが、その矢先のこと。


私と弟は裏庭で遊んでいたのですが、どちらともなく柿の樹に登ろうということになり弟が登って行きました。ある程度登っていた所で体勢を崩し、なんと落下!

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ピクリとも動かない弟にえも言われぬ恐怖を感じ、私は狼狽しながら母を呼びに行きました。その後救急車で弟は運ばれて行ったのですが、病院で医者から言われたコトが・・・


「下に草が生えていて良かったですね。クッション代わりになって衝撃を吸収してくれていたから、大事にはなりませんでした」


この話もあってか、父が怪我したせいもあってか。裏庭を除草して駐車場にするという話は立ち消えたそうですが、一体これは草に何かしらの意思が働いたのでしょうか?

祖母に話を聞くと、祖母のお母さん。そのお母さんのお母さんの時から、この裏庭にはその時に飼って死んだ犬猫を埋めたり、柿の樹を栽培したりしてきたそうです。いわば、ずっと歩んで来た存在。その存在には魂が宿る。
物に魂が宿るのは九十九神と言いますが、草にも樹木にも宿る。そうあることに何の不自然があるのだろう・・・と語る祖母に、子供ながらに不思議な気持ちになるものでした。



西垣 葵 写真


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