●更新日 12/04●

蝶の報い


因果応報という言葉があります。

良い事をすれば良い行いが返ってきて、悪いことをすればその報いが来るという意味ですが、正にそれを地で行くようなお話。

G県に住む淳司くん(当時小学校5年)は、動物虐待が好きな子供でした。動物虐待と言っても犬や猫などの小動物は泣き声や行動に気が引けるのか、虐待するのは主に昆虫。
小学校2年生の時に買って貰った昆虫標本セットが彼の嗜虐性を駆り立てたのだろうと、話を聞かせてくれたAさんは言います。
昔の昆虫標本セットは本当の注射針を使用していた時期があり、縁日の景品や田舎の駄菓子屋などでは普通に出回っていました。
アルコールを虫に注射して殺し、ピンで標本にする。たったこれだけのことですが、淳司くんには自分の手で消えて行く命に快楽を覚えてしまったのでしょう。
山の中に入って行って、蝶・カブトムシ・トンボ・コオロギなど・・・目に付いた虫をその注射器で殺したり、手で毟ったり、石ですり潰したりして遊んでいたそうです。
蟻の列を石で叩き、石が真っ黒くなるまで叩いていた彼をAさんは見たそうですが、恍惚の表情だったとか。


かくも気持ち悪くなる話ですが、子供の頃と言うのは善悪の基準が曖昧であり、無邪気に生き物を殺傷してしまう時期でもあります。

ある時、淳司くんがAさんに遊びに行こうと誘いました。淳司くんの遊びとはほとんどが虫を殺すことであり、いつもは気持ち悪いしで断っていたそうですが、たまたまその時のAさんはテストの点数が悪くて母親に叱られたばかりであり、とてもむしゃくしゃしていたそうです。
夏真っ盛り、山の中で日が暮れるまで蟻を踏み潰したり、蟻の巣に小便をかけてみたり、蛾や蝶をエアガンで撃ったりして遊びました。

そして家に帰る時のこと。


写真

珍しい色をした蝶が、自転車を漕いでいた淳司くんの前を過ぎりました。


「あっ!あれを最後に殺してくる!行こうぜ!」


言うが早いか淳司くんは漕ぎ出し始めました。またか・・・と思いつつも、虫を一方的に殺すという快楽に今日は楽しく酔い痴れたAさんも後を続きます。
蝶が交差点の角に生えていた木の枝に止まりました。淳司くんは自転車を降り、地面にあった石を拾います。
淳司くんの方に行こうとしたAさんでしたが、走り出した時、たまたま解けていた靴紐を踏んでしまい転んでしまいました。


その直後、転んだAさんが見たものは―――

石を構えて近づいた淳司くんを横切る蝶。「のやろ!」と蝶を追いかけて、交差点の中に入った瞬間に物凄い轟音が響き渡りました!


写真

唖然としながら視線を追うと・・・

乗用車に撥ねられてガードレールに叩き付けられた淳司くんの姿が。

彼の姿は今まで殺した昆虫同様、内臓が飛び出ていたそうです。


大騒ぎになりましたが、Aさんは自分も轢かれるのでは?と気が気じゃなくなり、家に戻り自分の部屋に閉じこもって・・・

あの日以来、10年以上経った今でも蝶を見ると、淳司くんの飛び出た内臓と殺した蝶の内臓の色が頭にフラッシュバックしてきて嫌な汗が出て来るそうです。



西垣 葵 写真


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