●更新日 04/16● 写真
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自分が変る魔法の手帳


これは、私の元に寄せられた冬実さん(26歳・仮名)からの体験談です。

よく、自分を変えたい!と思っている人が、そういったマニュアル本を買って実践してみるなんてことをします。

「服装を変えよう」「髪型を変えよう」なんてお決まりの奴から、ちょっと突拍子もないものまで。

冬実さんがやった方法とは・・・?


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私は自分で言うのも何だけど、暗い。被害意識も強い方だと思う。

口癖は、「どうせ私なんて」

人と話すことが苦手なせいか、同期の女性とも打ち解けられない。

別にそれでもいいと思っていた。30歳になる前くらいに田舎の両親がお見合いの話を持ってくるのだろうし、その中から誰かと結婚して田舎に帰るのだくらいに思っていた。

ある時の4月、私は恋をした。

相手は中途採用で入ってきた、同い年の森井さん。何で好きになったのかは解らない。話してみた時、安心出来る気持ちがした・・・というのが切っ掛けだったような気がするけど。

この日から、私は変りたいと思うようになった。

しかし、話し掛けられない。

ずっと見つめているわけにもいかないし、目が合ったら逸らしてしまう。

待っているだけで恋が始るのは、先天的に華のある子だけ。同期のコにもそういう人はいるけれど、私はそんなの持っていない。

「どうせ、私なんて」

呟きは多くなったけど、この恋だけは何とか・・・


いつだったろうか。何気なく買った女性誌に「自分を変える魔法の方法!」というコラムが載っていた。

それはメイクを変える、髪型を変える・・・なんてお決まりのことが書いてあったのだけど、初めて聞くのも書いてあった。

それは、「なりたい自分を手帳に書いて、その通りにする」というもの。未来に起きて欲しい出来事を未来の日付に書き、その通りになるよう頑張って行く内に内面も変るとあった。

それをやることで前向きな行動を取るように・・・という理屈だろうか。まぁ、やってみよう。


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4月12日

会社で、森井さんが話し掛けてきてくれた

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翌日の4月12日、なんと本当に森井さんが話し掛けてきてくれた!

給湯室でお茶を入れていた時、外回りから帰ってきた森井さんが「水をくれないかな」と話し掛けてきて、その後に何回か会話が続いた。

・・・偶然と思いながらも嬉しい。じゃぁ、もう少し図に乗ろう。


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4月13日

森井さんに飲みに誘って貰った

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幾ら何でも、これは起きるはずが無い。

殆ど接点のない私が、いきなり飲みに誘われるなんて。

まさかね。・・・だけど、もしかしたら。


明けて、13日。

これも実現した。正確には私だけが誘われたのではなく、新入社員の合同歓迎式だったわけだけど。

その歓迎式で、森井さんが隣に座り、話の中で「へぇ、冬実さんは日本酒が好きなんだ。美味しい地酒飲ませる所知ってるよ」という話を振ってくれたから、これは今度個別の飲みに誘って貰ったと取れなくも・・・?

もう、私は有頂天だった。本当に魔法の方法だ。

偶然でも何でもいい。起きなくなるまでは魔法。なら、起きるまでは使い続けよう。


・森井さんと帰りが同じになった

・森井さんとお昼ご飯を一緒に食べた

・森井さんと休憩中に話が盛り上がった


全部叶った。

もちろん、この出来事が叶うように帰りの時間を合わせたり、お昼に森井さんが並んでいるお店に偶然を装って一緒に並んだりしたのだけど。

この頃には、手帳に書いたから実現するのか、手帳に書くからやらないといけなくなるのか・・・もう、自分でも解らなくなっていた。


そして


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4月23日

森井さんに告白したら、OKを貰えた。その日、彼に抱かれた

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「ごめん、俺・・・付き合っている人いるんだ」


目の前が真っ暗になった。何でよ!今まで上手く行っていたのに、何でよ!!

どうせ私なんて、最後の最後で駄目になるというの!?

あまりにも悔しくて、彼の前から走り出してしまった私。


何よ、何よ、何よ!!! 何が魔法よ!!! 

あんな手帳に書いたら実現するなんて嘘じゃない!!!!

思いっ切り破り捨ててやる!

そう思いながら手帳を開いたら・・・


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4月23日

森井さんに告白したけど、駄目だった

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・・・?

私はこんなこと書いていない。駄目になったなんて書くわけがない。

でも、これは?


いや、そうじゃないわよ、冬実。

この日記に書いて実現して、それで振られたのであれば、違う日付に書き直せばいいだけじゃない!

森井さんは今の彼女と別れた。私に告白してきた、と書けばいいだけじゃない。

手帳に・・・!


その後、2日経っても一週間経っても、森井さんが彼女と別れたという話は聞かないし、私に話し掛けてもこない。

私の書き方が悪いのだろうか。魔法はまだ、切れていないはず。

ずっと、ずっと、あの日から「森井さんは私に告白する」と書き続けている。


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これを読んだ皆さん。

どこまでが本当の話で、どこからが彼女の妄想が解りますか?

飲み会で一緒になって日本酒の美味しい店を知ってるよ、というのまでは本当に起きた魔法と言う名の偶然でしょう。

それ以降は、ただ冬実さんが書いた通りになるようにやっていただけ。一緒に帰るのも、お昼一緒になるのも本人が言っている通り、合わせることは出来ます。

なら、「彼に告白してOKを貰った」「告白したけど、駄目だった」

これはどちらが本当の・・・?

解いてみてください。



西垣 葵


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