墓石が沈む池
「古の都」と呼ばれる京都には、歴史の数だけ怪談がある・・・と言っても過言ではないほど、心霊スポットが多いです。
新しいものでは廃ビルやトンネルから、古いものでは合戦の舞台まで。今回は、ちょっとした非日常空間をお届けしましょう。
そこは通称『墓池』と呼ばれていて、文字通り墓石が散乱する池。有名なスポットほどではありませんが、ちらほらと心霊現象の噂もあります。
安置されなければならないはずの墓石が、何故池に散乱するのか?まずは『墓池』へ行きましょう。
京都市北区のとある地域にその池はあります。
「○○霊園」という看板に従い、とりあえず拓けた墓場を徘徊してみるも、目的の池は見当たりませんが、徐々に山の奧へと進んで行くと、生い茂る木々のせいで昼間なのに暗くなっている場所に辿り着きました。
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向こう側には墓地が続く池ですが、この濁った池には
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墓石が沈んでいるのが確認出来るでしょうか?
墓石には、ほとんど名前が入っています。つまり、これらの石やその下で眠っていた御魂もあったという事になりますね。
墓石の中には、埋葬者の没年が掘られている物もあり、昭和中期から大正・明治、中には江戸時代の年号まで、年代はバラバラ。
近くの寺院がこの池や周囲の墓地を管理しているらしいのですが、その寺は一般的なイメージとは程遠い、ただの一軒家を寺だと主張しているような建物でした。
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近くに住むご年配の方にこの墓石の由来を聞いてみると、要約すると、池に散乱する墓石は無縁仏の慣れの果てだとか。
いつからか、墓地を管理する寺院が新たな土地代を得るために撤去した無縁仏の墓石を、当時稲作に利用されていた溜め池の側に積み始めた。次第にその数が増え、増水や渇水の際に岸が崩れて転落するものもあった。それでも墓石は増え続け、現在に至る・・・と。それなりに古い石が多かったのは、こういう理由から。
「いくら無縁でも、仏さんは仏さん。いつかはお怒りになるんとちゃうかなぁ。いや、もしかしたらもう・・・」
そこでお婆さんは言葉を濁しました。これ以上は、部外者が聞いては駄目なものなのかもしれません。
ただ、こんな興味深い話をしてくれました。
「まだあの池の水を田んぼに使ってた頃、山の上に病院が出来てな。ほら、結核の人ばっかり扱う・・・そう、サナトリウムな。一時期、そこの排水があの池に流されてるって判って、大騒ぎになった事があったよ。まぁ今は上水も下水もしっかりしてるから大丈夫やけど。病院も結核がほとんど無くなってからは普通の病院になったし。・・・それでもこんなヘンピな所にあるから、誰にも手が付けられない患者ばっかり集まって来るわ。周りには『最後の病院』て呼ばれてるよ」
サナトリウム。排水。最後の病院。
確かに、不気味な話がまとわり付くには十分な背景ですね。
池に沈む墓石の正体は、無縁仏の慣れの果て・・・。だけど、由来や過去、そして現在の出来事を鑑みるに、時と場合によっては“何か”が出てもおかしくない場所であることは確かです。
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この墓石も、いつかは池の中に??
西垣 葵
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