●更新日 07/21● 写真
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廃屋の闇の中に


主婦の野島さんには小学生のころに不思議な思い出がある。
それは小学校へ行く途中にあった廃屋。小学生になったときには、すでに廃屋になって朽ちはてていた。


小学生の想像力とは豊かなもの。廃屋の噂話だって当然あった。
野島さんも一学年上の先輩から聞かされていた話もある。
先輩の話では
「昔、おばあさんが一人ぼっちであの家に住んでたんだって」
おばあさんが亡くなっても建物は放置されていて廃屋になった、そんな話だった。建物のまわりは鉄条網が張られてたから中に入れない。だから生徒もみんな興味津々。


そんな廃屋は格好の怪談スポットだった。「あの家の中で何かが動いてるのを見た」、そんな噂もあった。


でも怪奇現象にはそんな興味ない野島さんには、どうでもいいような話だった。あの経験をするまでは・・・・・・。



五年生の夏。林間学校が終わって、バスで学校まで戻ってきて解散した。野島さんは、仲良しで近所に住んでいた大川さんと、いつものように一緒に仲良く帰った。


林間学校の思い出話で盛りあがってた二人だったが、いきなり大川さんが言った。「ねぇ、あれ・・・・・・。」





大川さんが指さした方を見ると、あの廃屋があった。「えっ?」何のことかわからない野島さんは「どうしたの?」と大川さんに聞きかえす。


「見えないの・・・・・・?」

大川さんの顔は真っ青になって体がブルブル震えている。
野島さんは何が起きてるのか理解できない。「え、どうしたの、ねぇ。」


「あの光ってるの・・・・・・何? ほら、あの柱の上でユラユラ揺れてる・・・・・・。」



大川さんが指さした方をどんなに見ても、野島さんには何も見えない。闇の中に廃屋がある、ただそれだけだ。でも大川さんには何かが見えてしまってる・・・・・・。



大川さんの冗談とも思えぬ震えた姿。でも自分には何も見えない。見えない何かがそこにいる・・・・・・。
「ここにいてはダメ。逃げよう」そう言って野島さんは大川さんの手を引っぱりながら全速力で必死に走って帰宅した。

自分には見えないゆえの恐怖。本当の恐怖というのは、そういうもの・・・・・・。


この話には続きがある。大川さんは、次の日から高熱を出して4日ほど学校を休んでしまった。復調して学校に登校してきた時から、野島さんが何を言おうと、噂話をどこかでかじったクラスメートが尋ねてこようと、決して見えた何かのことを口にしなかったと言う。
数日後、たまたま大川さんのお母さんと会った野島さんが、あの日のことを口にするとお母さんは蒼白になり黙ってしまった。

一体、大川さんは何を見たのか・・・。高熱を出した四日間に何があったのか・・・。

本人達が一切口を開かないため分からないが、何かを見たのだろう。何かがあったのだろう。




何か―――







日村 裕次


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