床下に眠る死体
会社員の森野さんは小学校の同級生たちと時々同窓会を開いている。その時にいつも決まって話題に出る忘れられない思い出がある。
小学校五年生だった時のこと。森野さんは家に帰ってランドセルを開けた。そうしたら学校に理科の教科書を忘れてしまったことに気がついた。
私立の学校に通っていたから、学校までは片道で四十分ほど。でも取りに行かないと次の日までの宿題をできない。仕方なく学校へ戻ることにした。
夕暮れの校舎。生徒たちはみんな帰って、職員室だけ電気がついていた。いつも見なれてる風景とちがって静まりかえっていた。電灯の消えた校舎の中は小学生の森野さんには不気味そのものといった感じだった。
できることならすぐにでも校舎を出たい、そう思った。内心ビクビクしながら一歩一歩中へ入っていく。いつも利用してる階段を上って教室へ。ドアを恐る恐る開けて中に入って自分の机の中を確認した。が、そこには教科書は無かった。
ということは理科の授業で理科室に置き忘れてきたのか・・・・・・。
そう思った瞬間に森野さんは何となくだが嫌な予感がした。
理科室は一階の奥にある。そこへ行くには教室を出て階段を下りて一階に戻って、図工室とトイレの前を通って行かなくてはならない。
森野さんが恐れてたのは、そのトイレの前を通ること。トイレの入口には、どういうわけか一か所だけタイルの床ではなくて木の板が敷かれてる場所があった。
生徒たちの間で古くから伝わる話では、この木の板をはずすと床下に死体が埋められてるんだとか。みんな「そんなわけない」と言うけれど、本当は怖くて、そのトイレを使うときは急いで用を足して外に出る生徒が多かった。
森野さんは恐怖心をどうにかおさえてトイレの前を通って理科室へ。目的の教科書はそこにあった。少しホッとして教科書を手に持った、その時。
ギギィーッ・・・・・・
まるで板がきしむような音が、どこかから聞こえてきた。
もしかして・・・・・・。
ギギィィィーーーーー!!
間違いじゃない。確実に何か音がしている。
それも、あのトイレの方から・・・。
ギギギギッギギギギギギギギギッギギギギギギギギ
耳にこびり付く音。駄目だ、ここにいちゃいけない! 森野さんは青ざめて全速力で走って校舎の外へ出た。家に帰るまで何かが追いかけてきてないか心配で心配で、走りながら何度も後ろをふり返った。 せっかく取りに行った教科書は、理科室にまた置いてきてしまった。
翌朝。トイレ入口の板のことが気になって行くと、何事も無かったかのようにいつものままだった。
ただ、一点。
何故か理科室に置き忘れたはずの教科書が、板のところに落ちていたことだけを除いて・・・。
日村 裕次
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