●更新日 10/10●
怪異証言 金融業界の心霊事情
以前から続く不景気に世界同時不況のダブルパンチで、生活がきびしい人も多いことと思う。
多くの人が財布の紐を絞め、節約を心がけ消費が落ち込み、経済活動もまだ今後の見通しが付かない状態だ。資金繰りに悩んでいる経営者も多いだろう。
筆者も一人の消費者として、また小さいながらも会社の経営者として気持ちはわかるつもりである。
金融業に資金や生活費を頼る人も多いだろう。
借りれば返済するのは当然のことだが、わかっていてもなかなかそうはできない苦しい事情の人もいることと思う。
それは好景気の時期も同じようだ。
これは、今から20年ほど前、まだ世の中バブル景気で浮かれていた時期の話である。
Sさんはある大手金融企業の創設メンバーで、当時九州で働いていた。
金融業界でも業績のよかったその企業で、Sさんはトップクラスの成績を収めていた。
この業界は、融資高が高ければよいというわけではない。
回収率が高くて、初めて優秀とされるのだ。
だがその回収は熾烈を極めると言う。
債務者は、荒んだ状態であり、出し抜こうする他業者との競争も過激だ。
回収先を1日十数件廻るだけで、フラフラになる。
肉体的な疲労はともかく、精神的にもまいるのだという。
つまり、……憑かれるのだ。
借金が返済できない家庭や企業には、陰気が集まっており、不浄な霊たちが集まっている。
金融業界の人間が、回収に行った場合、その異様な空気に圧倒され、たむろった悪霊たちを拾ってしまうらしい。
回収に行った先が、自殺したりしていることは日常茶飯事であり、債務者たちの死霊や生霊が事務所や社員の前に出現し、恨み言を述べることもある。
つまり、金融業界は霊さえも吹き飛ばす力のある人のみが成功する世界なのだ。
Sさんの部下が、ある債務者の自宅に行ったが誰もいない。
居留守を使っているのかと思い、大声で呼んでみる。
だが… 何度か呼びかけても、反応すらない。
そこで、(そっ〜)とドアをあけてみて
――― 仰天した。
天井から、(ぶら〜り)と縊られた死体がさがっていたのだ。
第一発見として、警察に通報するが、骨折り損のくたびれ儲けという始末。
すっかり、気落ちして自宅にたどり着き、シャワーを浴びようとバスルームを開けた。
すると、その債務者が悠然とたっている。
怒りも無く、悲しみも無いその顔は無表情であったという。
はっと我に返り、大声で霊を叱りつけた。
「なんで、おまえ、人ん家にいるんだよ!」
その声で驚いたのか、霊はそのまま壁を通り抜けて消えていった。
次の日、その部下は精神に異常をきたした。
Sさんは言う。
「珍しいケースじゃないのですよ。彼みたいに、自殺した霊や生霊に付きまとわれ、精神的に病んでしまう人は多いのですよ。それこそ年に何人も…いっちゃってますね」
こんな悲劇が起こらない世の中になることを祈るばかりだ。
山口敏太郎
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