●更新日 10/14●


悲しい生霊(イベントプレゼント付き)


前回に引き続き心霊の話をもう一つ。
最後にささやかなプレゼントもあるので最後までお読みください(笑)



前回紹介したSさんの会社の別の話。
これも今から20年ほど前、まだ世の中が今ほど不況ではない頃のことだ。

その企業は急成長に対応するため、研修所を設立した。
新入社員を早期育成するため、そこで教育するのが目的だ。
しかし、その土地に問題があった。
元々、古い石碑のあった場所で、その石碑を倒し、そこに研修所を建設したのである。
そんなことから、無論、
…亡霊が
…出たのだ。
毎晩のように、老婆の亡霊が研修所を彷徨った。
どうやら、老婆の霊は石碑に関係があるらしく、教育担当者を責め続けた。
当然、社員の間でも、亡霊の噂が広がり、その研修所での社員教育は中止された。
長期に渡って、老婆の亡霊にさい悩まされた教育担当者は、発狂した。

そんな噂が社内に広まる中、Sさんは激務に耐えて頑張っていた。
彼の強い精神力がそうさせたのであろうか。
ある日のこと、いつもは部下が担当している山中の一軒家を訪問することになった。
融資金額をなかなか返済してくれない問題の人物である。
それでも、部下は頑張って、毎月少しづつだが、回収してくる。
「いや〜、毎月山の一軒家まで行くのは大変ですよ」
そう言いながら、仕事に励む部下の姿に感動したSさんは、自ら回収に出向くことにした。
(あいつのために、少し回収に協力してやろう)
そんな親心だったのである。

山中だけあって、昼間でも人っ子一人いない。
その屋敷のドアをノックした。
「こんにちは!」
返答が無い。人の気配もしない。
(おかしい、何かあったのだろうか)
Sさんは、ゆっくりと玄関ドアをあけ、土間の部分に入り込んだ。
(あれ!?)
居間の掘りコタツに人がいた。
(なんだ、いるじゃないか。耳が遠いのかな?)
土間の方に背を向けて座っている。
60代ぐらいの男性が、ただ何もせず、じっと座っているのだ。
大きく息を吸いなおすと Sさんは大声でその人の名前を呼んだ。
「○○さん!!」
それでも、その人は振り向かない。
意地になったSさんは、何度も呼びかけた。
そんな応酬が30分ほど、続いたが、男は背を向けたままであった。
(どうも変だ、普通じゃない・・・・・・。)
なんとも言えない違和感を感じたSさんは、会社に引き上げてきた。
事務所に戻ると、部下に声をかけた。
「あの人、少し変わっているよな〜、今日、あの家に行ってさ、本人がコタツにあたってたから、呼んでも振り返らないんだよ」
すると、担当者の顔色が変わった。
「本当の事言わなくて、すいません、僕は自宅じゃなくて、今まで病院に取り立てにいってたんですよ。違法だって知ってたんですが…。あの方は今、絶対安静で入院中なんですよ。自宅にいるはずありません」
部下はてっきりSさんが、自分を試してるんだと思い、大いに狼狽している。
Sさんの脳裏にはあの後ろ姿が蘇った。
「借金や病気で帰れない自宅、そこに帰りたい気持ちが生霊になったんでしょうね」
彼は何度も自ら頷きながら、そう語ると悲しそうに笑った。

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山口敏太郎



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