●更新日 10/18●
見たら死ぬ猿酒、猿の憑き物・ヒサル
数年前、ネットで奇妙な妖怪の噂が広がり話題になったことがあった。
その名前は「ヒサユキ」「忌被猿(キヒサル)」「被猿(ヒサル)」と呼ばれており、各地で名前や性質が微妙に違うようである。
大体共通する情報としては、この妖怪は猿に憑く憑き物と言われ、これに憑依された猿は凶暴になり、銃で撃たれても死なずゾンビのように向かってくるというものだ。
異説では狂犬病になった犬と同じような状態で、人間に襲いかかると言われている。
どうやら、神経が麻痺しているか、脳に異常があるらしく、異常な怪力や身体能力を発揮する場合もあるらしいというかなり、やばい憑き物である。
なおこの憑き物は主に猿に憑くのだが、時には他の動物にも憑依し、暴走させることもあるという。
筆者はこの妖怪「ヒサル」の名前を聞いた時、幻の妖怪「ヒーヒザル」を連想した。
そして、「ヒーヒザル」と似た妖怪が現代に復活したことに驚愕した。
この幻の妖怪「ヒーヒザル」は、昭和10年に佐藤清明氏が発表した「現行全国妖怪辞典」に記載がある。
佐藤清明氏は、日本で初めて妖怪辞典を作った人物である。
しかし、巨人・柳田国男の影に隠れ、最近までまったく評価されていなかった感がある。
昨今、スポットがあたりつつあるが、戦争前から「妖怪辞典」という概念を持っていたとは、驚くべきセンスである。
なおこの佐藤清明氏は主に植物・昆虫分野で学者として評価されており、妖怪について評価されることは少ない。
(平成10年、惜しくも亡くなっている。)
「ヒーヒザル」はこの図鑑に掲載されているのだが、詳しい説明は無く、手がかりはほとんどなかった。
(あくまでこの資料はリストであり、詳しい調査カードが別に存在するようである。
筆者は佐藤清明氏の、孫娘の夫である某氏に伺ったことがあるが、詳しい資料は遺品からも発見されていないとのことだった。)
イラスト:SEL
この図鑑には「病人に憑き無神経にさせる。岡山県御津郡」とあるのみであるが、「ヒ」と「サル」が入る名前といい、憑き物という性質といい、憑依されたものは、内蔵が出ようがどのようになろうがゾンビのように動き廻る(つまり、佐藤清明氏いうところの無神経という意味か)という部分といい、ネットで話題になった妖怪と近い種である可能性が高い。
ほとんど、各地で数名づつの老人しか覚えていないようなマイナー妖怪が、ネットで一瞬にして広がり復活することが最近多い。
凄まじい時代になったものである。
猿そのものが人間に死をもたらすという怖い話もある。
「奇々怪々あきた伝承」(無明舎出版)に収録されている話だが、秋田県の某山村に千年を経た猿酒という霊薬が保存されているという。江戸時代の学者菅江真澄が図解入りで調査しているものであり、少なくとも江戸期には既に知られた霊薬であった。
奇跡的に現在でも保存されており、この酒は猿そのものを材料にしているという。
真澄の記録によると、胆と背中の肉を寒水にひたし30日、日に乾かし美酒につけ、さらに6月の炎天で干す、そして塩水のかめに入れ、蓋をして3年経たあと、1合汲んで塩と水を入れれば千年経っても変わることがないと記載されているのだ。
恐るべき事に、清原武則の金沢城落城の時、持ち出してから千年経ているのは間違いないのだ。
この貴重な猿酒だが、これには見たら死ぬという言い伝えがある。
過去にある僧侶が強引に見たために死亡したといわれ、この「奇々怪々あきた伝承」の著者・福島彬人氏と同行した猿の研究家も死亡している。
この事実は、幽霊研究家として著名で「お化けをまもる会」の主宰をしていた亡き平野威馬雄氏も記録しており、客観的にも事実であろう。
この猿酒の死の連鎖は現代でも継続中なのだ。
山口敏太郎
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