●更新日 01/17●


「怪談本」に纏わる怖い話・霊を信じない編集者の身に起きたこと


ある年、筆者はとある版元さんから「怪談に関する」というムックを発売した。複数のライター、漫画家が参加していたが、筆者はメインライターとして怪談記事の記述を行った。だがこの本の周辺では次々不思議なことが起こった。

このムックの企画のひとつとして筆者とつのだじろう先生の対談があった。子供の頃から「うしろの百太郎」「恐怖新聞」で憧れていただけに、個人的にも楽しみだったのだが、その当日奇怪なことが起こった。どうも、編集担当のNさんの顔色が悪い。
「なんかあったんじゃないの?顔色が変だよ」
「そうですか、気のせいですよ」

待ち合わせ場所で会った編集者Nさんの顔色は能面のように白い。
「そうですかじゃないよ。間違いなくやばい顔色だって」
「山口さんがそう言うならば、言いましょう。実は…」

筆者がしつこく聞いたので根負けしたのか、彼は自分の周りで妙なことが連続して起こっていると説明し始めた。
「山口さん、すいません。正直、心霊本を作っていながらなんですが、僕は祟りとか障りとか、信じてなかったんですよ。寧ろ馬鹿にしてました」
「なんてことを、馬鹿にしちゃいかんでしょ」
「ええっ、魂や霊を馬鹿にした自分のせいですね。酷い目にあいました」
「何があったんですか」

なんと、数日前にNさんのご身内が亡くなっていたのだ。まだ若い従兄弟が朝、布団の中で変死をしているのがみつかったのだ。
「なんですって!」
「いや、でもそればかりじゃないんですよ」

なんと、このムックの表紙の制作を担当したデザイナーさんのご身内が、当日緊急手術をすることになったというのだ。
「これはやばいな、霊障のような気がする。信じてないNさん、今度はあなたが報復される可能性すらある」



直感的にかなり危険な匂いを察した筆者は、対談終了後、つのだ先生を見送った後、すぐその収録現場から祈祷僧の茶羅尼さんに電話入れ、祈祷の依頼をした。
「どう思いますか?」
「いや、小馬鹿にした報いですね。次は、編集さんに来ますね」

霊能者のこの一言ですっかり震え上がったNさん。
「反省しますから、祈祷して祓ってもらってくださいませんか」

Nさんは、この手の霊の存在に対してまったく信じてなかった自分を恥じ、深く考え入った。

祈祷が通じたのか、その後は奇怪な事故もなく、無事販売まで完了したのだが、最後まで霊の怒りは収まらなかったのであろうか。結局、編集担当のNさんとNさんの上司が会社を辞めることになった。Nさんは最後にこう言った。

「結局、偶然と言えば偶然ですが、怪談本が最後の仕事になりました。まあ特に心霊本の件がきっかけでやめるわけではないのですが…。今後実際にあった心霊談を取り扱う場合は、真面目に取り組む必要がありますね」

Nさんはその後、転職していった。
しかし、その転職先は本書を著者にオファーした○○○社だったのだ。
「怪談本」の呪いは、Nさんを追跡する。

真面目に怪談本を作れという、上からの命令なのだろうか。



山口敏太郎



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