立て続けの怪事に、すっかり頭の中がパニックになってしまった私は、電話を切り、
十円玉を入れ、また切っていた。何度もその行為を繰り返すうち、やっと我に帰った。
 電話ボックスをはい出て、防風林を迂回し、車をとめてある舗装道路まで走る。
車に乗り込むと、けっしてルームミラーを見ないようにし、全速力で旅館に戻った。
 落ち着きを取り戻したのは、旅館の駐車場に着いたときだった。取り乱していては、
部下にしめしがつかないと思い、深呼吸をして玄関にはいる。
 部屋に戻る途中、エレベーターでいっしょになった仲居さんが、私を見るなり
怪訝そうな顔をしてこう言った。
「あ、お兄さん、誰がつれてきたね。私の体の半分(手で体を縦に切るしぐさをして)
がジーンと痛くなってきたよ」
「本当に?」蚊の鳴くような声で応えるのが精一杯だ。
『家まで、ずっとついて来られたら、いったいどうすればいいのだ?』
 部屋に戻ると、真っ青な顔をした二人が私の帰りを待っていた。口々に今夜
体験したことを報告しあうと、大の大人でもトイレに行けないほどの恐怖が襲ってきた。
 結局、私たちは、外が明るくなっても寝つけなかった。