翌日は、一睡もせず捜索をした。
重い足を引きずって旅館に戻ると、依頼者からの伝言が残されていた。失踪者が、
自殺を思い留まって自宅へ戻ったという。私たちは心から喜んだ。
遺書を残して失踪し、実際に死ぬ確率はフィフティ・フィフティ。捜索している過程で
失踪者に死なれるほど辛いことはない。今回の場合は、私たちの思いが通じたのか・・・。
帰りがけに、遠藤がはいったという幽霊旅館に立ち寄った。駐車場の送迎バスは、
長い年月によって錆び、ボロボロになっている。館内も荒れ放題で、異様な
たたずまいを見せていた。そのほか、敷地のあちこちに、二十年ほどまえの車が
七台も放置してあり、どれも錆び果てていた。
しかし、どの車も当時の高級車である。商売がうまくいかずにやめたのなら、財産は
処分するはずだ。まるで強盗にはいられて、一家が惨殺されたような痕跡に見える。
気になった私たちは、山を下りて人々に聞いてみることにした。
米屋の主人の話では・・・。
旅館は繁盛していたが、十数年まえ、ある仲居さんが馴染みのお客を刺し殺した。
三角関係のもつれが原因だ。仲居さんは、その後自殺したが、彼女は霊となって
旅館に現われるようになった。客足は遠のき、気味悪がったオーナーは旅館を閉める。
館内の調度品や高級車が放置されている理由は、誰も知らなかった。
推測だが、その仲居さんの怨霊があまりにも凄まじかったため、恐れをなした
オーナーがわざと手をつけなかったのだろう。霊は物に乗り移ると聞いたことがある。
遠藤が見た幽霊旅館は、死んだ者の怨念の強さが作り上げた異次元の世界に違いない。
井上が橋の上で振り返ったときに肉親の霊を見たのは、「四十九院橋」が、
この世とあの世の境目だったからだろう。
そして私が次々と見た霊魂は、この世に未練を残し、誰かに見つけてほしい
と願いながらも、死に急いでしまった霊たちかもしれない。
この地方は、昔、一向一揆が激しかったところだ、戦国の世に、信長によって
女子供も関係なく根絶やしにされ、何千という一向宗徒が磔になった。
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