私は片山津温泉の聞き込みが空振りに終わったので、一人、車を飛ばして東尋坊へ
向かった。虫の知らせか、私たちの探している失踪者がそこにいるような気がして
ならなかったのだ。
 ヘッドライト以外に明かりはなく、防風林や原生林に囲まれた東尋坊は、不気味さを
通り越して全体が大きな霊場のような雰囲気を漂わせている。
 ここには過去、何度も来たことがあった。もちろん失踪者を追い求めてであるが、
その中の何人かは必死の捜索にもかかわらず、ここで命を落としていた。
 一度だけ、警察署の霊安室に横たわった失踪者を見たことがある。そのとき私は、
忙しくて来れないないという身内に代わり、遺体の確認をした。
 五〇メートル下の岩礁に叩きつけられた遺体は、一昼夜、荒波にもまれ、ほとんど
原型をとどめていないほど悲惨だった。本人と判別できたのは、Tシャツとズボンだけ
だったのである。
 そんな過去を思い出しながら車からおり、懐中電灯を持って防風林の中にはいった。
ザワザワと揺れる木々と、遠くで波が岩にあたる音がする。あちこちに不気味な祠がある。
 真夜中、こんな所に来るのは、自殺者か、よほど神経の図太い人間だ。墓場の
肝試しの百倍以上も恐い。
 林の中ほどにさしかかったとき、何故か懐中電灯の球が切れてしまった。
ここに来る途中、コンビニで買った780円の安物だ。私は、ちきしょう、と呟きながら
懐中電灯を捨てた。
 しばらく動かずに目をならしたが、まったく明かりのない深い森の中では、 1メートル先も
見えなかった。
 足を踏み外したら最後、自分が霊安室に横たわる羽目になる。
 手探りで観光客用の公園がある方角へ向かった。そこにはわずかだが街灯が
あったはず。
 ゴツン。何かが頭に当たった。恐る恐る手で触れる。「靴・・・? 足だ!!」
 振り払おうとした手が空を切った。消えた!?
 木にぶつかりながら、無我夢中で逃げる。この東尋坊は、飛び下り自殺の次に
首吊り自殺が多い。恐いと思う気持ちが、木の枝を足と錯覚させたのか。
いや、たしかにバスケットシューズの感触だった。しかも、木の枝なら消えるはずがない。
 やっとのことで林を抜け、公園の中の街灯の下に出た。ハアハアと息をきらしながら
ベンチに座ると、オレンジ色の淡い光があたりを照らしていた。
目の前には岸壁が迫っている。
 と、突然、人の気配を感じてギョッとした。隣のベンチに誰かが座っている!
たしか、自分が座るまえは誰もいなかったはずだ。
 私はゆっくりとその方向に顔をむけた・・・・・。