わが社が調査に協力していた『あなたに逢いたい!』をはじめ、生き別れた肉親と数十年ぶりに感動の再会を果たしてくテレビ番組が流行っている。会いたくても様々な事情があって、会うことが出来なかった親子の劇的な再会シーンを眼にすると、プロの探偵ですらつい目頭が熱くなることがある。しかし、テレビに登場できる人たちは、ごく稀なケースと言ってよいかもしれない。行方調査の依頼をうけて実の親を探してみると、殺人の前科があるから子供に合わせる顔がないといったことがある。子供の前から姿を消す人たちには、それなりの重い事情があるものなのである。
行方調査には、時として悲惨な結末がつきまとう。最近、手がけた実母の行方調査も、依頼者にどう報告してよいものか頭を悩ませられた典型的な例であった。依頼者は、22歳の女性で生まれてすぐに養子に出されていた。
「実の母親にどうしても会いたいのです」
「戸籍には、どう記載されていますか」
私は、最も基本的なことを訊ねてみた。
「父と兄は、死亡していると書かれてありました。唯一、血の繋がった肉親は母だけなんです」
戸籍には、実の両親の名前が記されていた。父親は病死し、兄は交通事故で死亡したらしい。不思議なのは、兄が死亡した2日後に養子に出されていたことである。住民票の転出証明や聞き込み調査を重ねるうちに、依頼者の母親は、ある用品店で偽名を使い、販売員として働いていることがわかったのだ。
「きれいで真面目な人ですよ」
近所の評判はよかった。しかし、調査対象者の本名や経歴、家族のことを知る者は誰もいない。何か人に言えない過去があるに違いなかった。
私は、洋品店からひとりで出てくるところを狙って声をかけた。
「実の娘さんが、あなたに会いたがっているのですが」
彼女は一瞬、凍りつくような表情を浮かべ、勢いよく手を振った。
「人違いでしょう。私には娘なんておりません」
私は、根気よく何度も対象者に声をかけたが、その度に否定された。
しかし、彼女が依頼者の母親であることは間違いなかった。以前、住んでいた町で聞き込みをしていくうちに、驚くべき前科があることを突き止めたのだ。
私が22歳に成長した依頼者のことを話すうちに、偽名を使って隠れるようにして暮らしてきた実の母親は、涙ぐみながら告白しはじめた。
「……あの娘の父親はひどい人でした。働きもせず昼間から酒びたりになって、私や子供たちに殴る蹴るの暴力を振るっていました。私が殺らなければ、私たち親子は殺されていたと思います。ええ、私はあの娘の父親と兄さんを殺してしまったんです。殺害を決意した日、娘はたまたま親戚の家に行っていたから、巻き添えにしなくても済みました。息子まで殺したのは、将来を考えると不憫に思ったからです。その後、私は、刑務所に入っていたんです」
依頼者の実母は、泣き崩れながら実の娘と再会できない理由を訴えつづけた。
「私はあの娘にとって、実の母であると同時に、父さんと兄さんを殺した憎むべき女でもあるんです。あの日、娘が家にいたら同じように殺っていたと思います。お願いですから、探し出せなかったことにして下さい……」
悲惨な結末は、数え切れないほどある。以前、38歳の会社員から実の母親を探し出してほしいという依頼を受けた時も、探偵を辞めたいほど辛かった。その依頼者も幼い頃、養子に出されている。成人後、自分が養子であることを知った依頼者は、思い切って養父母に訊ねてみた。
「父さんと母さんのことを本当の親だと思っている。でも、血の繋がった両親にひと目会いたい。お願いだから教えてほしいんだ」
「お前は、2歳の時に養護施設からここの家の子になった。施設の人は、ご両親のことを何も教えてくれなかった」
養父母は、本当に知らないようだった。養護施設がわかっていたので、調査はさほど難しくなかった。関係者に聞き込むうちに、私は意外な事実をつかんだ。それは、依頼者の両親が出会ったきっかけにまで遡る。
−つづく−