翌日は相棒をつれて、早朝から張り込んだ。彼女の勤め先は品川にある大きなインテリジェント・ビルだ。出入り口はたくさんある。どれを利用するのか押さえておかないと、退社後の尾行が困難になってしまう。そんな計画をたてながらも、一方で、もう1人の女性のことが気になっていた。 零時過ぎまであの部屋にいたのだから、たぶん泊まったのだろう。それなら、出勤する彼女といっしょに出てくるはずだ。 午前七時二十八分、ガチャッとドアの開く音が受信機から聞こえてきた。 出てきたのは彼女一人。相棒に尾行させ、私は部屋に向かった。 ドアに耳をつけ、室内音を聞く。シーンとしている。電気メーターはゆっくり回っている。冷蔵庫だけの消費量・・・・・。 あの女は、私が引き上げた後、部屋を出たのか?それなら、なぜ彼女の部屋でシャワーを浴びる必要があったのか? 頭が混乱していく。 私がイヤホンを耳に入れたまま、ドアの開閉音に注意した。 一日じゅう待って、事態が動いたのは午後七時ごろ。イヤホンからかすかな雑音が聞こえてきた。 私は慌ててマンションにはいり、彼女の部屋のドアに耳を当てた。 ステレオの音! 誰かが室内にいる。しかし、部屋の明かりはついていない。 私は非常階段に潜み、中にいる者の次の行動を監視した。 一時間ほどでステレオの音はやみ、昨夜と同じ時間にゴーッとガス給湯の音が聞こえてきた。シルエットを見るために、身を伏せてバス・ルームの小窓の下に潜る。 シャワーの音は聞こえるが、やはり明かりがついていない。ゴトンッ、ゴトッとシャンプーのボトルを押す音だけは、たしかに聞こえる。 と、そのときだった。 「へへへへへ・・・・・フフフフフ・・・・・」 まるで狂人が笑っているような、不気味な笑い声が響いてきた。 |
|