今のはなんだ? 唾を飲み込んで小窓を見ると、そこにはガラスにピッタリとくっついた女の顔があった!
『うわぁぁ・・・』 
 声が出そうになるのを、手で押し殺し、音をたてないように部屋を離れた。姿は見られていないはずだ。
 それから間もなく、受信機のイヤホンにドアがバタンと閉まる音が入った。パッと部屋の明かりがつく。彼女、本物の彼女が帰宅したのだ。
 私は隣のビルに上がって部屋を覗いた。
 玲奈らしい女性が、ベランダの洗濯物を取り込んでいる。カーテンは閉められているが、上部のたるみから十分に部屋の様子がうかがえる。
 やはり、他に人がいる気配はない。 
 彼女は部屋にはいると、テーブルに向かい、何やら書き物をはじめた。
 そして十時過ぎ、ショートパンツに着替えた彼女は、体を横にして、美容体操をはじめた。足を高く上げ、バタバタさせている。
 これ以上、観察してもしかたない。私はビルを降りて相棒と合流した。
 今日一日の彼女の行動を聞くと、残業した帰りに同僚とレストランの定食を食べて、そのまま帰宅したとのことだった。
 では、バス・ルームにいた女は誰なのか? 私の幻覚か・・・・・・。
 もしかして、彼女が二人いる?