調査五日目(日曜日)、依頼者にとっては最悪の事態がおとずれた。彼女が会社の上司とラブホテルにはいってしまったのだ。
 私はその事実を、すぐ彼に知らせた。酷いことだとわかっていても、事実を報告するのが契約上の決まりである。
 しかし、私の話を聞いた彼は、一向に信じようとしなかった。そして、
「たった今、玲奈の部屋に電話をかけたんです。彼女は、熱が出て、寝ているの・・・・ごめんなさい、と言ってました。その彼女が、上司とラブホテルにいるはずがないでしょう」と言った。
 じゃあ、私たちが尾けているのはいったい誰なのだ?
 私は、相棒をラブホテルの前に残してマンションに戻り、対面するビルからスコープで室内を覗いた。 すると・・・・・。
 アッと息を呑んだ。間違いなく彼女はいる。笑みを浮かべて、こっちを見ているような気がする。私は暗闇の屋上、しかもエアコンの室外機のあいだにいるのだ。肉眼で捉えられるはずがない。
 スコープのレンズが光っているからか。


 私はスコープをはずして、肉眼でベランダを見た。
 すると彼女の姿がない。消えている。しゃがんだのか。
 もう一度スコープを覗いてみたが、やはり彼女の姿は消えていた。
 ラブホテルにはいった彼女は、赤いワンピースを着ていた。それを思い出して、生き霊の文字が浮かんだが、霊が電話に出るはずがない。と、いうことは・・・・・。
 頭の芯が痛くなってきた。あとは、ラブホテルにいるのが玲奈本人だということを証明するしかない。上司とホテルから出てくるところを写真に撮ればいいのだ。