●更新日 05/09●

動物たちの怨念 第1夜


怨念……と言うと、人の魂や怨霊を思い浮かべる方が多いだろう。
しかし、霊は人間だけに存在する訳ではない。
虐げられた動物たちの呻きや叫び−−−それもまた”怨念”として存在するのだ。
今回は、私が調査などで聞いた話、自らが経験した出来事などを話したいと思う。



襟元から覗く首

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高層マンションに暮らしていた家族が居た。その家族は室内ペットとして、猫のつがいを飼っていた。

子供のうちは良かったのだが、当然のように猫は成長して……子供を産んだ。去勢など考えてなかったのだ。
全部で6匹。初めての出産にしては多い数だ。
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だが……望んでいない子猫たちを疎んじたその家族は、母猫もろともベランダへと追いやった。
家族には、子供が1人居た。中学生の少年だ。
少年だけは、親の仕打ちに反対したが、悲しい事に親の言いつけに逆らう事が出来ない気弱な性格だったのだ。
結局、猫たちはベランダに置かれた。


あとは想像がつくだろう……。
慣れない足取りで動き出した子猫たちは、彷徨いだし、そして……

ポトリ。

ポトリ。

……と1匹。また1匹とベランダから落ちていった。
飼い主たちは、次第に数が減る子猫たちに気付きながら、そのまま見て見ぬ振りをしていた……。
母猫がニャアニャア鳴いて子猫を引き止めようとするが、それも適わず、6匹の子猫全てが落ちて……死んだ。

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それから数日が経った。
ベランダに隣接する部屋に寝ていた少年は、真夜中に何とも言えない気分になり目覚めた。
気持ち悪い空気が部屋に流れているような気がしたという。
何故か外が気になり、ガラス戸を開けてベランダに出た。夜風も心なしか、生温く感じる。
手摺りから下を覗けば、漆黒の奈落。
(猫たちはここから落ちたんだ……)
そう考えると悲しみ以上に、慣れたはずの高所に急に恐怖を感じた。
直ぐに部屋に戻ろうとした時−−−

少年は見た。






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真っ暗な部屋の中で、
壁にハンガーで立て掛けた自分の学生服の襟元から、
6つの子猫の首が覗いているのを。

何も鳴かずに、ジッ−−−と少年の顔を見つめる6つの……首。
勿論、学生服の下には何も無い。
子猫の首だけがそこに存在しているのだ。

うわあああああああああああああああああ!!!

少年は絶叫した。
隣の部屋から慌てて両親がやってきて、部屋の電気を点けた。
その時にはただの学生服が存在するだけで、子猫たちの姿は消えていた。

それから小心者だった少年は、親を説得して子猫たちの供養をさせた。
その1度きりで、子猫たちが姿を見せる事はなかったという。
「寝惚けただけじゃないのか?」
と、からかいで訊いた事がある。
彼は真剣な顔をして、絶対に間違いないと言い放った。
その件が遭ってからもう10年以上経ち、成人した今でも彼は、
”襟が覗く服は、絶対に壁に掛けられない”
と大きなトラウマを心に残している。

マンションやアパートなどの室内でペットを飼うのも良いだろう。
子供を産ませるのも良いだろう。
それが人間のエゴで無い事を祈る。

生まれて直ぐに、不条理な死を迎えた動物たちの沈痛な呻きがあなたの背後から聞こえぬように……。



探偵ファイル



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