●更新日 11/20●
帰すわけにはいかぬ
甲信越地方に、こんな伝説がある。
「与三郎婆さ」
300年前、ある家に老婆と孫の与三郎がいた。与三郎は生まれたばかりであった。
老婆は孫が可愛いあまり「食べてしまいたい」と、べろべろ与三郎の体を舐めるようになっていた。
ある日、老婆は与三郎を抱き上げた拍子に彼の頭を柱にぶつけ、出血させてしまう。
ついついその血を舐めた老婆は「味噌の味がする!」と叫び、頭からすっかり孫を食べきってしまった。
その後、孫の味が忘れられずに子供をさらっては喰らう鬼婆と化し、山に隠れ住んでいるという……
新潟県南魚沼郡に、この鬼婆がいつも獲物を探しながら腰掛けているという石がある。
地蔵尊と三万騎城址の前にあるとのことだが、この辺りは人通りも少なく街灯もない。
そのため異様なほど暗く、数歩先の道すら見えないほどであった。
それらしき石も、暗闇の中では見つけられなかった。
仕方なく、この地蔵尊を撮影したところ
不気味な青い光が。
繰り返すが、周りに光源は一切ない。
被写体を別のものに変えてみると、問題なく撮影できる。
実は取材を始めた頃から、誰かに見張られているような感じがずっと気になっていた。
誰かが「地蔵尊を撮るな」と言っているような予感がして、情けなくも怖気づき、もう帰ろうと車に乗り込んだ。
しかし……
何故かエンジンがかからない。
写してしまったあの青い光が、私を帰すまいとしていたのだろうか……。
時間は午前3時20分。
得体の知れぬ恐怖を感じるが、他に行くところもない。
仕方なく、車の中で朝を待つことにした。
うとうとと眠りかけていた私。
夢の中で、口が耳まで裂けた白髪の鬼婆が私に向かってこう言った。
「帰らせるものか……」
夢……そう、あれは夢であったのだと信じている。
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