●更新日 11/02●
公園と少年(百物語)
いつも昼休みはコンビニで弁当を買い会社近くにある公園のベンチで過ごしていた。
だがその日はどこも満席で相席する隙間もなく私は諦めて会社の休憩室で食事をとる事にした。
道すがら、群れる雑居ビルに隠れる様にひっそりと佇む小さな公園を見つけた。
丁度良い。
私は早速公園の隅にある小さなベンチに座り弁当を広げた。
暫くして食後の一服をしていると妙な音を聞いた。
くちゃくちゃ
それは柔らかい何かを咀嚼する様な音だった。
見ると公園の入口に子供が立っていた。
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俯いていてよく見えないが服装から男の子だとわかった。
少年は私の座るベンチへ歩いてくる。
くちゃくちゃ
妙だった。
少年と私の距離はさしてないがそれにしても音が大きい様に思えた。
暫くして私の前で少年は立ち止まる。
くちゃくちゃ
どこかくぐもっていて、まるで耳元から聞こえる様な。
少年が口を開く「オイシイ?」と。
ぎょっとする。
少年の声はヘリウムガスを吸った様な甲高い声だった。
私は弁当の事だと思い些か戸惑いながらも「美味しかったよ」そう答えた。
そして「さっきから君は何を食べているんだい」そう訊ねた。
少年が顔を上げる。
口の周りがべっとりと血で濡れていた。
絶句する私の顔を見て少年は目を見開きにんまりと笑う。
「オイシイヨイッショニタベヨタベヨタベヨタベヨ」
甲高い声で首を左右に揺らしケラケラと笑う少年。
その口の隙間から赤い無数の破片が飛び散りその一片が私の膝の上に落ちた。
肉片?
気付けばお互いの鼻が触れ合う距離に少年の顔があった。
ぞっとする。
青ざめる私に少年は、がばりと口を開いた。
私は悲鳴を上げ公園を飛びだした。
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少年には舌がなかった。
くちゃくちゃというあの音は少年の、自分の舌を咀嚼する音だったのだ。
それ以降、私は昼休みに外出する事を止めた。
件の公園と少年について何人か会社の同僚に訊ねてみたがいつもよく聞き取れなかった。
同僚が口を開く度に耳元で聞こえるのだ。
くちゃくちゃ、と。
ヒロキ
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