●更新日 11/19●

28回目の確率変動


皆さんはパチンコは好きですか?

5000円くらいの運試しで終る人もいれば、日に数万円も投じて大当たりと外れに一喜一憂する人もいる。話を聞くと、1年で車が買えるくらいの金額をパチンコに使って、中には借金までして続ける人もいるのだからまことギャンブルとは怖いものです。

今回のお話は、相田さん(23歳仮名)がパチンコで起きた身震いするような話・・・。





「チクショウ!」
またリーチが外れた。台上のカウンターは700回を超えている。
そろそろ出るはずなのだが・・・と金を入れ続けて3時間余り。使った金は3万円。
今回のは大掛かりなアクションだったので期待したのだが、上手く行かないものだ。







「あぁ、もうっ!!」

気が付けばサイフの中には1000円札が2枚しか入っていなくなってしまった。

今日は給料日だったから携帯・光熱・ガス・水道・・・まぁ、その他諸々の生活費を全部下ろしてきたわけだが、その金は全部目の前の台が飲み込んでしまった。

店内に流れる「本日の営業は終了します・・・」というアナウンスと共に流れてる蛍の光が冷静に戻してくれたのだが、使ってしまったのは仕方が無い。今月のシフトは 多めに入れてくれと店長に頼むしかないだろう・・・と思いつつ、最後のリーチを見ながらタバコを咥えていると・・・。

写真

外れた。こんなもんだな、やっぱり。ふとカウンターを見てみれば、1400回以上回っている。


「あー、叩いたねぇ、アンちゃん。でも良かったやん。明日は回りよるよ、そこ」


関西弁で話し掛けてきたのは、ブルゾンを着たいかにもパチプロ風の中年。おそらく、ここの常連だろう。
「朝から来た方がえぇで。今日回収台なら、明日は開放台や」とヤニ臭い顔で笑っていた。









翌日、銀行から3万下ろし、開店前から並んだ。昨日の負けを取り返す!なんてパチンコやって出来た試しは殆どないのだし、あのブルゾンのパチプロの話を信じたわけでもない。ただ、1400回以上回して出なかった台が、今日は開放台になっているのでは・・・と思うのもまた事実。
昨日負けた台にまた金つぎ込むのもどうかと思ったが、結局開店と同時に他の客を押し分けて昨日の台、397番台に座った。


パッキーカードを入れ、座ること5分。最初のリーチが来て・・・当たりだ!!しかも確変!!
周りから「へぇ」という小声が聞こえた。あのブルゾンが言った通り、今回は開放台だったのかもしれない。
その後、引くわ、引くわ!大当たりの嵐!!
確率変動は終らず、気が付けば16回目の大当たり。俺の横には箱があれよあれよと積み重なっていた。
この店は等価交換だから、昨日の負けは十分に取り戻したことになる。


「なっ、言ったやろ。今日は確実に出るって」


そう話かけて来たのは昨日のブルゾン。今日もヤニ臭い顔でニタニタ笑っていた。


「あぁ、オッサンのおかげや。ありがとさん」
ブルゾンに一箱渡す。別にお礼なんてどうでも良いとは思うのだが、このブルゾンの一言が無ければ今日は来なかったかもしれない。なので、純粋にお礼のつもりだ。


「えぇんか。ありがとな。じゃ、いい事教えたるわ。その台な、あと12回回るで」
「12回?」
「せや、最初に3の大当たりから来て、その後は9に7。また7が来て9やろ」


確かにそんな感じだったかもしれない。少なくても、最初の3は当たっている。


「そうかも知れんが、何でや?」


「連れがな、前にここの台で全く同じことやったんや。前日に全く出んよって、次の日に大勝ち。こういう台はな、アンちゃん。全く同じパターンを入れてるのも有るンやで。信じる信じないは自由やけどな」


正直怪しい話だなとは思ったが、まぁ、止める止めないは俺が決めればいい。少なくても今止めるつもりはないし、12回回るというならそれはそれで嬉しい話だ。
そう思いながらタバコに火を点け、また画面を注視する。
ブルゾンの言う通り、確かに確変は続いた。2回・・・4回・・・6回・・・どんどん横の箱が溜まって行く。
気が付けば11回目が終ろうとしていた。隣に座っていたブルゾンの言うことは確かに当たっている。正直、薄気味悪いくらいに。


「オッサン、ありがと。大儲けさせて貰ったわ。これも気持ちや、取っとき。次にノーマルリーチ来て終わりやろ?」
箱を一つ持ち上げ、ブルゾンに渡そうとすると


「あー、えぇんよ。連れと全く同じやからな。次に2が出て終るわ。そいつは帰りに車に轢かれて死によったから、アンちゃんも気をつけや」

「!?」


写真

そう言いながらブルゾンが立ち去った直後、出目が2で止まり、大当たりを告げていた―――


気色悪い!!!
だが、もしもという事も・・・?
居ても立ってもいられなくなった俺は、その場で玉を打つのを止め、直ぐに換金に向かった。
換金所で全ての勝ち分、13万強を交換し直ぐにタクシーに乗る。どうしても歩いて帰る気分にはなれない。
タクシーが発進して直ぐのこと――――


ドシャン!


その後のことはいまいち覚えていない。目が覚めたのは病院のベッド。

聞いた話では、右折しようとした時に対向車が突っ込んできたらしい。衝突の際に頭を打ち付けた俺はそのまま気絶し、救急車の世話になったとのことだ。
病院のベッドで思ったこと。
それは・・・大当たりの途中で止めたから事故を起こしても死ななかったのかもしれない。最後までやっていたら??
いや、ただの偶然の可能性もある。だが・・・


俺はこの事故の日を境に、パチンコを辞めた。



西垣 葵 写真


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