●更新日 12/08●

タンクからの誘う声


「おいで・・・」

「おいで・・・」

「こっちにおいで・・・」


こんな声が仕事している時や、真夜中に聞こえてくることはありませんか?

これは私の友達が実際に起きた体験です。

中山くん(当時21歳)が、梅酒の製造工場でアルバイトをしていた時の話なのですが、彼がやっていた作業は製造工場に大量の焼酎が入れてあるタンクの中に、ただひたすらラインから上がってくる梅を入れていくという単調な作業でした。




来る日も来る日も、ラインから流れてくる梅をタンクに入れる。

誰とも話さず黙々と9時半から12時。13時から17時半まで誰とも話さずにやり続ける。

こんな単調な作業を嫌う人は多く、バイトを直ぐ辞める人も多かったらしいですが、中山くんは元々バイト仲間と雑談とかするのが好きじゃな方らしく淡々と続けていました。


ある年のとても暑かった日のこと。


「落ちたぞ!」

「バイトがタンクの中に落ちた!!!」



そう、落ちたのは中山くんでした。

お酒の中に落ちてしまいましたが、幸いにも周りに何人か居たために大事には至りませんでした。

しかし、何で落ちてしまったのか。梅を投げ入れる場所には転落を防止する為の柵があったのに。

偶然にも見ていた人の話では、中山くんが柵を乗り越えて入って行ったとのこと。ということは、自分から飛び込んだということになります。


何故・・・?


救出された中山くんに現場の監督が話を聞くと・・・


「それが・・・何で飛び込んだのか解らないんです。ただ、タンクの中からおいで、おいでって声が聞こえてきて。そんなことはないって自分でも解るんですが、何度も聞こえてた気がして・・・。気が付いたらタンクの中に入っていたんです」


監督 「何か見たモノとかあるのか?」


「お酒の匂いと少し飲んでいたし、何しろ暑くてフラフラしてたらから幻覚なのかもしれませんが・・・人が・・・。若い男みたいな感じの人が俺の方に寄ってくるような感じがして、来るな!来るな!ってもがいていたような気がします。そうこうしている内に工場の先輩の声が聞こえて・・・」


この中山くんの話、聞いていた監督は絶句していたそうです。


なんと、中山くんが飛び込んだタンクは数年前に働いていたアルバイトの人が転落して亡くなっていたとか。その人は不幸にも昼休みに残業してたら転落してしまい、誰にも気付いて貰えなかった。

発見されたのは、その日の終業時刻であり、その間も転落したタンクに梅を投げ込まれて文字通り“埋められて”いた・・・。



中山くんは監督からその話を聞いた即日、そこの工場を辞めました――



西垣 葵


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