●更新日 12/20●

人形の声


知り合いの夫婦はサウスカロライナ州の田舎村に“ホーム”を経営している。
ここに住む人達は他人に危害を与える危険性が少ないと判断された精神異常者達。
彼らの身の回りの世話が仕事。私は夫婦の手伝いをしに、ある夏ここを訪れた。

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車で20分ほど行かないと何もないけれど、空気が綺麗で緑の森に囲まれ、シカやウサギがその辺をウロウロしていたりして、とても癒される場所だった。そんな場所とは異次元な世界のここで出会った60代女性の話。

「孫娘の8才の誕生日にカウガール、アイススケーター、芸者の人形を買ってあげたの。それまでは人形なんて買ってあげなかったのだけれど、両親が交通事故で亡くなったばかりだったので、人形が慰めになればと思って。彼女は毎日人形で遊んでいて、ものすごく気に入っていたの。ところが幸せそうな孫娘に嫉妬した孫息子がカウガール人形が持っていたムチを人形の首に巻きつけてクローゼットにぶら下げてしまったの。その夜にね、『首のムチが苦しい、あの子に復讐してやる』って声が聞こえて。年寄りの空耳だと思って別に何とも思わずに眠ったのよ。そうしたらね、次の朝、孫息子を起こしに部屋に入ると姿が見当たらない!ベッドの下を探してみたり大声で名前を呼んでみたのだけれど、見つからなくて。最後にクローゼットのドアを開けたらハンガーに首がかかっていて。死んでいたの。どうやらハンガーで遊んでいるうちに誤って首を引っ掛けてしまったみたい。娘を失い、孫息子を失い、気が狂いそうになったけれど、孫娘がいたからしっかりしなければ!と強く思ったわ。孫息子の葬式も過ぎ、やっと生活が落ち着いてきた頃、孫娘が『大変!アイススケーター人形の足が折れちゃった!』と大泣きしながら部屋に入ってきたの。直す事はできなかったけれど、セロハンテープで折れた足をとめて置いたの。その日の夜、中々眠れなかったのね、するとどこからか『足が折れた、足が痛い、あの子に復讐してやる』と聞こえたの!孫息子の死の前夜の事を思い出してあわてて孫娘の部屋に行ったわ。でも彼女は幸せそうにスヤスヤと眠っていたから私も部屋に帰って眠った。朝、孫娘を起こしに行くと、彼女のベッドは血の海。彼女は何者かに喉を裂かれ殺されていたの。直ぐに警察が来て、バタバタと色々な事をしていたわ。孫娘の葬式の日に警察が来て、私は殺人罪で逮捕され牢屋へ連れて行かれた。裁判などもあったけど、何も思い出せないの。ただ警察は私が娘夫婦も殺したと思っている事は知っているの。私には人形の声が聞こえたのよ。人形が犯人なのよ!私は無実。だって私はただの年寄りですもの」

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最後に「芸者人形はあなたにそっくりだったのよ」とニッコリ微笑んだ彼女を見ながら背中に冷たい汗が流れていくのを感じていた。
知り合い夫婦に確認した所、実際に殺人罪で逮捕され、裁判になったものの、精神鑑定の結果“状況判断不可能”と診断され不起訴、そしてホームに来たとの事。

人形の声・・・聞こえるだろうか?



MAYU


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